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第11話・1週目[束縛]

「美穂ちゃん、千秋ちゃん借りていい?」 いつも通り彼女と帰ろうとしていると、急に拓海がそんなことを言い出した。僕が疑問に思っている間に、彼女はその頼みを聞き入れる。 「あっ、うん!じゃあ拓海くん、また月曜日ね」 既にずいぶん長居をしていた後だから、教室にはもう誰もいなかった。彼女が去ったことで2人きりの空間が完成する。 何か言われるのかと身構えたが、特に変なことは言われなかった。久しぶりに、拓海との間に穏やかな時間が流れる。好きなスマホゲームの話で盛り上がったり、かと思えばお互いに口を開かなくなったり。でも静かな時間もぜんぜん苦じゃなくて、やっぱり拓海といるのは心地いい。いつの間にか、普通に目も合わせられるようになっていた。 去り際、彼がポツリと呟く。 「夜、待ってるからね」 僕は頷いて、「8時までには行くよ」と告げた。 母には事前に拓海の家に行くことを伝えていたため、帰った時には既に夕食が用意されていた。夕食を食べ終え、お風呂から出た頃には、時計は7時半を指している。男同士な上に家も隣なのだから、特に準備も必要ない。少し早いが、拓海の家に向かうことにした。 「今から行く」と連絡を送ろうとすると、先に拓海からメッセージが届いていたことに気付く。そこには「鍵開けたからいつでもいいよ」と書かれていた。治安がいいとは言い難い世の中で無防備すぎやしないかと呆れながらも、早く行く理由ができたことに感謝する。 「行ってきます」 拓海の家の扉を押せば、何の抵抗もなくそれは開いた。玄関には彼の靴が1つだけ。その横に丁寧に靴を並べて、拓海の部屋へと向かった。 「おじゃまします」 そう言って扉を開ければ、何かを見ながら座っていた拓海が顔をあげた。 「いらっしゃい」 その何かを見て、僕は思わずその場で立ち止まる。 「どうしたの?」 拓海の手にあったのは鎖付きの手錠。今まで彼の部屋でこんなもの、見たことなかったのに。 「何、持って……」 「これ?」 そう言って優しい手つきでそれを弄る拓海に、薄ら寒さを感じる。彼は予想外の言葉を発した。 「千秋ちゃんに、付けて貰おうと思って」 「僕に……?」 冗談だと言ってもらえるのを期待して拓海を見つめる。だが、彼の表情は真剣そのものだった。 「目に見えることって、大事だと思ったんだ」 そのまま彼は語り始める。 「信じてないわけじゃないんだよ。でも、確証があったらもっと安心できるでしょう?それで、どうしたら千秋ちゃんを僕のものにできるのかなって考えたら、この方法が浮かんだんだ」 僕はまだ、拓海の翳のほんの一部しか理解できていなかったのかもしれない。 「安心して。トイレに行くときも食事のときも外してあげるから。だからお願い、僕から離れないって約束して。その証を、これで示して」 彼はいつから、こんなに歪んでしまったんだろう。僕が手を差し出すのを待つ拓海を見て、頭の片隅で可哀想だと思った。 冷静な自分が断るべきだと言う。だから僕は質問した。僕がここで断ったら、拓海はどうなる? 冷静な、無責任な自分は、その質問には答えない。 「いいよ」 だから僕は、拓海の側についた。拓海が僕に手錠をかけていく様を、ただじっと見つめていた。

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