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第12話

手が一気に重くなったように感じる。でも、不思議と心は嫌悪感を示していなかった。 「これで、千秋ちゃんは僕のだね」 拓海が満足そうに撫でれば、それは呼応するようにチャリ…と音をたてる。 「拓海がこんな趣味してたなんて知らなかった」 僕はあえて、何も気にしていないように振る舞うことを選んだ。 「なに?女の子たちにもこんなことしてるの?」 「しないよ。変な噂たてたくないし」 だったら、どうして。 「初めてだよ、こんなことしようと思ったの。千秋ちゃんこそ、随分あっさりはめさせてくれるんだね」 彼の手が、スッと唇の上をなぞる。 「キスはダメなのに、これはいいの?こっちの方が、普通じゃないと思うんだけど」 だって、仕方ない。あんなことを言われて、拓海を放って置けるわけがない。 「断ったら、拓海は傷付くんだろ?」 「……そうだね」 彼の手が僕の頬を撫で、そのまま顎を軽く掴む。これは彼がキスをするときの癖だと、頭のどこかで気付いていた。 「ごめん」 彼はそう呟いて僕との距離を詰める。予想通り、唇が重なった。 「んっ……」 何度もしてきたキス。でも今日のキスは、いつもの触れるだけのものとは違った。 「やっ……んっ……」 こんなに長くなんてしたことなくて、息が苦しくなってくる。空気を取り込もうと口を開ければ、予想外のものまで口の中に入ってきた。 クチュクチュと、今まで聞いたこともないようないやらしい音が響く。生暖かいそれは、状況的に拓海の舌しか有り得ない。 「たくみ……やめっ……!」 頭がぼーっとしてきた頃になって、やっと拓海が離れていった。 「なん、で……」 かと思えば抱きしめられて、身体の距離はさっきよりも近付く。 「キスは、ほんとに嫌?」 甘い声が身体に染み込んでいく。 「ここには僕しかいないんだから、千秋ちゃんの気持ちだけで答えて」 正直、嫌なんて思ったことはない。でも僕にとってキスは好きな人とするもので、今僕の好きな人はきっと美穂なんだろう。だから。 「……わかんない」 「否定は、しないんだ」 肩に顔を埋められているせいで表情が読めない。安堵しているようにも、寂しがっているようにも見える。 「もう寝よっか。昔みたいに、一緒の布団でくっついて寝よう?」 何かをはぐらかすようにそう言われた。そう気付きつつ、気付いてないフリをする。 「くっつくのは余計だ」 「ダメ?あったかいのに」 結局、背中から抱きしめられるような体勢で眠ることになった。目を瞑ってもなかなか眠れなくて、窓からさしこむ月の光をじっと眺める。 寝返りがうてないこの状況を、少しだけ息苦しく思った。

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