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第15話

「あつ……」 最近の朝はもう寒いくらいだというのに、何故だか今日は暖かかった。毛布とは違う、じんわりとした暖かさ。 目を開けば、その理由に気付く。 お腹にまわされた手。起き上がろうとするが、その手は意外に力がこもっていて僕を離さない。 かろうじて手は自由だったので、時間を確認するために枕元に置いていたスマホを取った。現在の時刻は午前10時。 「ん…」 自由といえどまだ手錠ははめられたままなわけで。金属音に反応したのか、彼は小さな声を出す。抱きしめられる力がより強くなったのを感じた。 僕は拓海の寝顔をじっと見つめる。 相変わらず綺麗な顔だと思った。そんな彼が僕なんかを隣において、こんな拘束具なんてつけながら一夜を過ごす。なんともミスマッチな光景だ。 その上僕らは、もちろん恋人なんかじゃない。同意の上なのだから、犯罪者と被害者の関係でもない。でもきっと、友達はこんなことをしない。僕らだけの、名前のない特異な関係。 「拓海、起きて」 暖かいのはいいが、動きが制限されるのは少し辛かった。朝の弱い拓海でも、流石に10時なら起こしても大丈夫だろうと思い声をかける。 「ちあき、ちゃん……?」 目を開けないまま、拓海は気の抜けた声で僕の名前を呼んだ。 「まだ……もうちょっと……」 軽く彼の手を叩いても、頑なに目を開けようとはしない。こんな調子でよくいつも遅刻をしないものだと感心する。 「もう10時だから。起きろって」 起きまいとされると僕もムキになって、少し強い声が出た。 ようやく彼は目を開け、僕の身体が解放される。固まっていた体をほぐそうと、上半身だけを起こした。 「千秋ちゃん?なんで……」 自分で作り出したくせに、彼はこの状況に驚いているみたいだった。数秒後、やっと昨日のことを思い出したのか満足そうに笑う。 「おはよう、千秋ちゃん」 「おはよ」 彼はもそもそという効果音が似合いそうなほどゆっくりと毛布から身体を出し、やっとのことで立ち上がった。

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