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第17話

ジュースを一口飲むと、爽やかな酸味が口に広がる。ジャムならイチゴ、ジュースなら100%のりんご。それは、僕の好みを的確に見抜いたような朝食だった。 「拓海にりんごジュースが好きなんて言ったっけ?」 「言ってたよ、小学校の時」 「すごっ、そんな昔のこと覚えてるの」 「うん。記憶力は良い方だからね」 その言葉に、やっぱり拓海はいい奴だなと思う。確かに学力は上の中くらいで、記憶力が良いというのも本当なんだろう。でも、人の発言や行動によほど気を配っていなければこんなことまで覚えていられないはずだ。 「ごちそうさまでした」 感謝の意をこめて言えば、拓海もあとに続けて手を合わせる。 かと思えばすぐさま彼の目線はベッドへと移動して、僕に手を差し出すよう促した。 「いきなりだな」 「もうご飯は終わったんでしょう?」 別にまったく動けないわけじゃないのだから文句はないが、そこまで徹底するものなのかと疑問に思ってしまう。そんなことしなくても、僕は逃げたりしないのに。 「……まぁいいけど」 「ありがとう」 これがご飯を食べる度に毎回行われるのだと思うとなんだか可笑しかった。 「なんで笑ってるの?」 「なんか、猛獣にでもなった気分だなって思って」 「千秋ちゃんはすぐに餓死しそうだよね」 「失礼な想像だな」 「違うよ。優しくて他の動物なんか襲えなさそうって意味」 そんな軽口を交わしているうちに手にはまた重さが戻っていて。それもまた可笑しさを際立たせる。 「で?今日は何かする予定あるの?」 「どうして?」 「こんなことまでしたんなら、何かしたいことがあったのかなって思って」 「……ううん、千秋ちゃんと居たかっただけ」 そんなセリフ、僕なんかよりもっと似合う相手がいるだろうに。そう口には出さなかったのは、少なからずその言葉に嬉しさを感じているからなんだろうか。 拓海から注がれる甘い視線に耐えきれなくて、ぐるりと周りを見回した。 「にしても、拓海の部屋は変わらないな」 たぶん小学校の頃からほとんど変わってない、飾りっ気どころかテレビすら無い部屋。その代わりに、本棚には本がびっしり詰まっている。その中身が高校生に似つかわしく無いものばかりなのは、きっとお母さんとの思い出を閉じ込めているからなのだろう。 「ごめんね、あんまり遊ぶものもないし退屈かも」 「いや、そういう意味で言ったわけじゃなくて。落ち着くなって思って」 申し訳なさそうにされたので思わずそう言えば、彼は穏やかな顔で笑った。 「うん。僕もここにいるのが一番落ち着く。ここは、母さんと僕と千秋ちゃんしか入ったことのない部屋だから」

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