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第18話
穏やかな時間が数時間流れて、再び拓海は1階へと下りていった。
水に濡れないためなのか、机の上には拓海のスマホが置かれている。当然、そのストラップの部分にはまだ鍵がついたまま。
「……何考えてんだろうな」
あんなに徹底しておいて、こんなミスに気付かないものなんだろうか。僕が勝手に手錠を外して、鍵を隠してしまうとは思わないんだろうか。
そんなことを思いながら、その鍵をそっと撫でる。
そしてふと、さっきは変わっていないと思った本棚に違和感を感じた。一番下の段に並べられているのは、題名のない真っ白な分厚い本たち。
何だろうかと思って屈み、その本を引き出そうとする。が、きっちりと隙間なく並べられているためなかなか取り出せない。苦戦しながらもなんとか両手で掴み引き寄せると、それはシンプルな作りのアルバムだった。
チャリ…と音を響かせながらぎこちなくページをめくっていく。そこには小学校からの、僕と拓海の思い出が詰まっていた。
いつ、何をしている時の写真だと思い出せるものから、記憶にないほどの些細な写真まで。そこにはたくさんの記録があった。最近になるにつれて僕だけしか写っていないものが増えていくのは照れくさかったが、それに勝る懐かしさが込み上げてくる。
まるで天使みたいだと、小学生の拓海の写真を見ながら思った。今も確かに綺麗だが、この純粋無垢な頃の笑顔には負けてしまうだろう。
そうやって昔の思い出に浸っていると、突然部屋の扉が開かれた。どうやら階段を上ってくる音すら、夢中になっていて聞き逃していたらしい。
「なに、してるの?」
拓海が少し不安を交えた表情で聞いてきた。僕はそんな拓海の態度に首を傾げて、明るい声のままで言う。
「ごめん、懐かしくてつい。よくこんなに残ってたな」
「……中学までは母さんが撮ってくれたから。あとは僕が撮ったり、遠足とかでプロが撮ったのを買ってるだけ」
「なるほどな。だから最近は2人で写ってるのが少ないのか」
パラパラとページをめくる僕の動きを、ただじっと拓海が見る。まるで奇異なものを見るかのように。
「……気持ち悪くないの」
彼はため息まじりに呟いた。
「なんで?」
「自分の写真が勝手にアルバムにいれられてるのって、嫌じゃない?」
「拓海なら気にしないよ。それより見て、この頃の拓海の笑顔。天使みたい」
そう言って、さっきの天使みたいだと比喩した写真に指を指す。拓海は照れているのか、その写真を見ることなく顔を背けた。
「お昼ごはん運ぶから、それしまっておいて」
はーい、と子供みたいな返事をしてアルバムをもとの位置に戻す。
鍵がアルバムの下敷きになっていたことに、この時初めて気が付いた。
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