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○第21話○・2週目[告白]

人間の欲に際限なんてない。そんな言葉をいつか聞いたのを思い出した。 今ならその言葉の意味がよく分かる。 ……学校が楽しくない。いや、今までも別に楽しいと思ったことなんてないが、いつも以上に楽しくないと感じた。ここは人が多すぎる。 千秋ちゃん以外と話すのが煩わしい。千秋ちゃんだけを見ていたい。 『いっそあのまま繋いでおけばよかったのに』 そんな馬鹿な声が心の中で響く。現実的に不可能なことを願えば願うほど、虚しくなるだけなのに。 ……でも、足りない。 心に穴でも空いてしまったかのように、常につきまとう不服感。それは愛が足りなくなった時の渇きに似ていた。 少しでもそれを満たそうと、補給をしようと、周りの人間に愛想笑いをしながら軽く会釈をして立ち上がる。千秋ちゃんのもとへと一歩踏み出した。 その時。 真っ直ぐ前に見えていた彼の姿が、誰かのせいで見えなくなる。その「誰か」は、なかなか千秋ちゃんの側を離れようとしない。しかもその姿は明らかに女性で。 「千秋ちゃん、おはよう」 彼女への牽制の意味を込めて、わざと千秋ちゃんの名前だけをはっきりと呼んで挨拶をした。 「おはよ」 「おはよー」 でも帰ってきたのは2人分の挨拶で。なんて空気の読めない奴なんだろうと思う。 千秋ちゃんの声が、いつもより少し明るいのも気にくわなかった。そんなに彼女といるのは楽しいのだろうか。 ぐるぐると得体の知れない怒りが身体の中を渦巻く。ここが人前じゃなかったら、目の前の机を思い切り蹴飛ばしていたかもしれない。 『羨ましいの?』 うるさい。今、心の声は聞きたくない。 『彼女に勝てる、いい方法があるよ』 そんなもの、あるはずない。そう思うのに、少しの期待が耳を傾けさせる。 『簡単なことだ。彼女の方から千秋を振るように仕向ければいい。お前なら簡単だろ?』 ……簡単どころか、一度は考えた。そのための布石だって、もう既に打ってある。でも彼の幸せを奪うなんて、僕ができるはずがない。 『違うよ。お前はそうやって逃げてるだけだ。本当に、彼女が千秋を幸せに出来ると思うのか?』 その言葉に決心が揺らぐ。揺らいで、今にも倒れそうで、倒れるのを覚悟して僕はゆっくりと瞬きをした。目を開けると同時に、彼女は自分の席へと戻って行く。 「千秋ちゃん」 わざと甘えた声で、彼の名を呼んだ。 安心して。僕はただ、彼女が千秋ちゃんに相応しいか見極めてあげるだけ。 「今週の土曜日、デートしよっか」 だから、僕の身勝手を赦してほしい。

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