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○第23話○

森山美穂が僕の迷惑も考えず付きまとっている。 そんな噂は瞬く間に広がって、他人伝てに僕の耳にまで聞こえてくるようになった。 さすがカースト上位者の拡散力だと感心する。そして僕はその噂を千秋ちゃんの耳に入れさせないために、彼の側にいる時間をいつもより長くした。 僕が千秋ちゃんといるときに彼女が声をかけてくれば噂の裏付けにもなる。まさに一石二鳥だ。 そんな小細工をしながら、彼女が諦める日を今か今かと待った。でも、彼女は一向にその兆しを見せない。それどころか、僕と千秋ちゃんが話している間にも普通に入り込んでくる。 どうして。彼女にはこの噂が届いてないのだろうか。それとも、届いた上で千秋ちゃんから離れようとしないのだろうか。前者なら馬鹿だと思うだけだが、後者ならば笑ってはいられない。 そうしてイライラしきっていた木曜日。彼女は予想外の行動をとった。 放課後、僕が千秋ちゃんと帰ろうとしていた時、こんなことを言い出したのだ。 「拓海くんに、聞きたいことがあるんだけど」 その遠慮がちな声さえ、千秋ちゃんと帰るのを邪魔されたと思うと機嫌が悪くなる。 「なに?」 辛うじて寄せ集めた良心の欠片を繋ぎ合わせて、いつも通りの態度でそう返した。 そうすれば彼女は千秋ちゃんの方をチラチラと見ながら言い淀む。どうやら彼には聞かれたくない話らしい。ならばこれは好都合だろうと、僕の狡い部分が応え方を導き出した。 「いいよ、待ってて。ごめん、千秋ちゃんは先に帰っててくれる?」 捉えようによっては浮気かもしれないと感じさせるような表情を作りながら言う。彼は鈍感だから、僕の意図には気付かないかもしれないけれど。 千秋ちゃんは「わかった」と一言だけ言って、教室を出ていった。まだ教室には人が残っていて、中には彼女を睨んでいる女子も数人いる。 「場所、移動してもいい?」 僕にとってはこのままの方が好都合だったが、断る正当な理由も見つからないので彼女に従った。 放課後には使われないであろう特別教室に、2人で入る。 「それで聞きたいことって?」 促せば、彼女は少し言いにくそうにしながらも話し始めた。 「噂のことなんだけど……。拓海くんも知ってるんだよね?私が拓海くんに付きまとってるって言われてること」 やはり耳に入っていないわけではなかったのかと少し驚く。さて、どう返すべきか。悩んでいるうちに、彼女はもう一言付け加えた。 「ねぇ、どうしてそんな嘘をついたの?」

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