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第28話

「オセロでもやる?」 午後8時。まだ寝るには早いが、自分の家で夕食もお風呂も済ませてきたため特にやることもなくて。今は空白の時間が続いている。 「やる」 オセロとはまた懐かしいなと感じながら、僕は短い返事をした。拓海の部屋の中にある娯楽物といえばトランプかオセロくらいのもので、昔は遊びといってはその2つをローテーションさせていたのを覚えている。 「せっかくやるんだから何か賭けよっか」 「いいけど。何を?」 「お金関係のものは無理だし、負けた方が勝った方のお願いを1つきくってのは?」 「わかった。じゃあそれで」 「賭け」と聞いて、お願いなんて思い浮かばないうちからやる気が出てくる。 ジャンケンの結果、僕が白を持つことになった。先行の拓海を追いかけるように、かつ白を広げられるようにと画策する。 だが、調子が良かったのは中盤までだった。 今までわざと取らせていたんだと言うように、だんだんと置き場所が制限されていく。角を取られまいとして避けていた場所に、ついに置かなければいけなくなった。もちろん彼はその角に黒を置いて、そこから一気に形勢が逆転する。 黒が全体の約3分の2を占めて、勝負がついた。 「もう1回!」 悔しくなった僕は、賭けは拓海の勝ちでいいからと再戦を申し込む。どうしても勝つまでやりたかった。彼は「しょうがないな」と笑いながら、その申し出を受け入れる。 僕がやっと勝てたのは、11時になった頃だった。 「やっと勝てた……」 授業を聞いているよりも頭を使った気がする。嬉しさよりも疲労感のほうが勝って、ここが拓海の家だと気にする余裕もなく床に倒れこんだ。 「もう寝よっか、明日は早いし」 「うん」 2人で同じベッドに寝転べば、拓海は自然と僕に抱きついてくる。 「抱きつくなって」 「さっきの賭けのお願いってことでゆるしてよ」 そう言われてしまえば仕方ないと、抵抗するのをやめた。むしろこんなことでいいのかと、拓海の欲のなさに不安になるくらいだ。 そのまましばらく経って眠くなり始めた頃、ふと身体に振動を感じた。最初は地震かと思ったが、ベッド自体が揺れているわけではない。背中の……ちょうど拓海が抱きついている辺りが小刻みに震えている。 「寒いのか?」 彼が起きていると確信し、僕は聞いた。 「どうして?」 予想通り彼は起きていて、眠気の感じられない、はっきりとした声が返ってくる。 「震えてる」 「ごめん、起こしちゃった?……なんでだろうね、寒くはないんだけど」 そう言って拓海は僕から離れていく。彼の強引な部分とそうでない部分の線引きは、よく分からない。 「別に離れなくていいから」 そう言って彼の手を掴み、自分のお腹の前にまわした。その手はひどく冷え切っている。 「……ありがとう」 夢を見た。昔の僕と拓海の、記憶の夢。 弱音を吐く拓海をなだめる、ヒーローだった頃の僕の夢。 「千秋ちゃん……僕を捨てないで」 記憶にないはずのその言葉。やけにはっきりとした苦しそうな拓海の声が、夢の中で聞こえた。

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