どうして美穂がここに。それに、見られた……？ 状況を整理できる容量を超えパニックになる。何も見てないと言ってくれと、縋るように美穂を見つめるしかなかった。 そんな僕に比べて彼女は極めて冷静で、拓海の方を向きながらこんなことを言う。 「やっぱり、拓海くんは千秋くんのことが好きなの……？」 ジャリ、と砂を踏む音が聞こえて、拓海が美穂に近付いた。僕らを結ぶとちょうど三角形になるような位置で立ち止まって、僕の方を見る。 「好き？……そんな言葉で表せるくらいの、軽い気持ちだったらよかったのにね」 彼の口から紡がれたのは、突然すぎる告白で。 「愛してるよ。千秋ちゃんの一番で居たいし、千秋ちゃんを独占したい。……だから選んでよ。 僕か美穂ちゃんか。千秋ちゃんにとって、どっちが大切なのか」 驚く余裕もなく、拓海は僕に選択を迫る。そんなの選べないと瞬間的に思ったから、僕はこう返した。 「なんで選ばなきゃいけないんだよ。拓海は親友で、美穂は彼女で。それで……」 「それで満足できなくなったからこう言ってる。ほら、言ってよ。美穂ちゃんを選ぶって。僕の前でハッキリ言ってよ。……いい加減、僕に諦めさせて」 その声はどこか切羽詰まっていて、本当に「選べない」なんて言ってられる状況ではないのだと分かった。思えば、彼が美穂までいる状況でこんなにも本心を曝け出すなんて、普通なら有り得ない。それくらい彼は必死なんだ。 軽く目を閉じて、彼の言葉通り「どっちが大切か」を考えようとする。考えようとして、考えるまでもないと気が付いた。 愛してるのか、と聞かれたら肯定は出来ない。ただ、どっちを手放せないかと聞かれたら僕は迷わず「拓海」だと答える。 それは彼女のことを好きじゃないからとかそういう理由ではなくて、好きとかそういう枠に入らないくらい僕の中で拓海は特別なんだ。 「拓海」 でも、そう彼に伝える前に彼女に謝らなくては。これはきっと、しっかりけじめを付けなきゃいけないことだから。 「拓海は先に、家に帰ってて」 その言えば、彼は苦しそうな顔をした。なぜ、と思ったが、そう問う前に彼は駆けていってしまう。 後に残された静寂を、やけに重苦しく感じた。