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○第33話○

千秋ちゃんが僕を選んだ……? 一瞬の嬉しさの後、すぐにそんなはずないと正常な脳が否定する。 「……千秋ちゃんは、嘘つきだね」 そうやって優しい言葉ばかりかけるから、僕はダメになっていくのに。 「嘘なんかじゃない」 それでも僕を選んだという彼の言葉に、次第に身体が熱くなっていった。どうして、伝わってくれないのと。その熱は脳までをも麻痺させ、僕から「自制」という言葉を奪っていく。 「だったら僕が、何をしても愛してくれるの」 心と口が直結しているかのように、彼を試すような、彼を傷付けるような、そんな棘のついた言葉が飛び出した。 スマホを耳に当てたまま階段を降りて、扉を開ける。 「そうじゃないなら入らないで」 そんな風に言いながらも、本当は彼が離れていくのは怖くて。答えを聞く前に自分の部屋に戻ろうとした。だが一歩踏み出そうとした時、彼の手がそれを阻む。 「拓海」 彼は僕の家に入り、後ろ手に鍵を閉めた。 「僕を信じて」 熱が上がる。 理性が溶ける。 彼が掴んでいた手で逆に彼を掴み返して、僕の部屋へと引っ張った。 「っ!」 勢いよく彼をベッドの上に押し倒す。 「動かないで」 状況を理解できないというように固まっている彼に「証」をつけ、可能な限り行動範囲を狭めた。 自力では起き上がれないくらいに。 「逃げたくなったら『やめろ』って言って」 ……そうしたら僕は、もう二度と千秋ちゃんに迷惑はかけないから。 そう言えば、彼は驚いた表情を一変させ、強い視線で返してくる。 その真っ直ぐな目に耐えられなくて、彼の目を塞ぎながらキスをした。 「っ、んんっ」 キス、というよりは彼の息を奪う行為。どうせこれで終わりならと、自分の欲を満たすためだけのそれをした。 「んむっ、んっ!」 ムードもタイミングも何もなく、ただ僕がしたいからと舌をいれる。彼が苦しがる仕草すら、僕のせいなのだと思うと幸せで。 何分そうしていたのだろう。満足して離れると、そこには荒く息をする千秋ちゃんの姿があった。さっきの強い目も、甘く蕩けている。 『もっと、欲しい』千秋ちゃんの全てが。 『1つに、なりたい』これで最後なら。 「言わないの?」 やめろって言ってほしい。もう自分では止められないから。僕を止めて。嫌わないように。 そんな僕の気持ちなんて露知らず、彼は残酷な優しさで答えた。 「言わ、ない」 ベッドの上に乗れば、ギシッと音が鳴る。 僕はゆっくりと彼の服に手をかけた。

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