44 / 60
第44話
美穂が離れていったかと思えば、両肩の上に置かれた手がパッと離れる。そのまま何も言わず拓海は席へと戻った。去り際チラと見えた彼の顔には、焦りの表情。
何故。
彼の方をじっと見つめてみるけれど、それだけでは答えが出るはずもない。人に囲まれながら笑顔で受け応えをしている彼に、心がざわついた。
安心が不安へと塗り替えられていく。
その不安は拭われることがないまま、どんどん膨張していった。彼が妙に、僕と距離を置いているような気がするのだ。
朝の挨拶は普通にする。
お昼休みだって一緒にいる。
なのに拓海はいつも先に帰ってしまう。しかもまた、女の子と一緒に。
……僕のことを「愛してる」と言ったくせに。
イライラと寂しさが混じるような気持ちを抱えながら、今日彼の隣にいるのは昨日と違う女の子であることにほんの少しの安堵を覚えた。
それでも面白くはないわけで。
日が経つにつれて苛つきは増していく。
拓海自身がそんな風だから「好き」という言葉を信じられないんじゃないかと、そう言ってしまいそうなほどに。
金曜日。少しだけ持っていた期待は、拓海の腕に絡みつく誰かによっていとも簡単に打ち砕かれた。
「……今日もかよ」
その光景を見て裏切られたような気持ちになる。
だからといって黙っていられる限界は超えていて。
気付けば僕は、拓海に向かって走り出していた。
「拓海!!」
数十メートル先にいる彼に大きな声で呼びかければ、彼は驚いてこちらを振り返る。
「今日一緒に本屋行くって約束してただろ!?」
僕は口から出まかせに嘘をついた。息を切らして走ってきた僕に、彼の隣にいる女の子も驚いている。
だが、さすがの幼馴染は機転を利かせるのが早かった。
「あれ、それって14日じゃなかったっけ?」
「だからそれが今日なんだよ!」
そう言えば、彼は携帯を取り出して日付を確認する。そんな約束してるはずがなんてないのに、何も打ち合わせなんてしていないのに、彼は僕の嘘に完璧にのってくれた。
「あー、ごめん。今日の日にち間違えてた。
どうしよう?」
そう言って彼は女の子の方を見る。彼女はこの場の空気に言わされるように、「約束があったんなら仕方ないよ」と言って拓海から離れることを選択した。
彼女が走り去っていったことで、微妙な空気が流れる。
「どうしたの?嘘までついて」
その言葉に怒られているような気がして、思わず悪態をついた。
「……拓海が悪いんだろ」
ともだちにシェアしよう!