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第45話

「なんで放課後すぐ帰るんだよ。……しかも女の子と一緒に」 女々しいと自覚しつつも恥を忍んでそう言えば、彼は何ともなさげに首をかしげた。 「ダメだった?」 彼は罪悪感なんてまるで感じていないような態度を示す。だから僕は、彼を怒らせると思いつつも言ってしまった。 「そんなんじゃ、拓海の『愛してる』って言葉も信じられないな」 そう言えば、彼の目から優しさが消える。 「なんでそうなるの」 返ってきたのは温度のない低音。予想していたはずなのに身体が強張った。 でもここで引いてはいけない。拓海自身が、彼のすることには本心で応えろと言ったのだから。 「普通に考えてそうだろ?普通なら、好きな人がいるのに他の人と遊ぼうなんて考えたりしない。大体拓海は、いつも隣にいる人を変えすぎなんだよ」 拳を作ってぐっと握りながら、彼にずっとぶつけたかった言葉を紡ぐ。 「普通って、何」 彼は何かを不満気に呟いたあと無理やり笑顔を浮かべて、「ここで言い合いするのも迷惑だから。僕の家でいい?」と言った。 確かにここは道の真ん中で、人通りが少ないといえど迷惑になってしまう。 僕はコクリと頷いて彼について歩いた。 家に着くまで、一言も会話は交わさなかった。 パチ、と音を立てて部屋の明かりが点く。 「じゃあ僕は、どうやって補給すればいいの」 電気のスイッチに手をかけたまま、彼は壁に向かって小さくそう言った。雑音のない静かな部屋は、どんな小さな声も聞き逃すことを許さない。 「僕が愛が足りないと生きていけないことは、千秋ちゃんが一番知ってるでしょ?」 こちらを振り返ったかと思えば、拓海が一歩一歩近付いてくる。僕はその空気に飲まれて、動くことが出来なかった。 「確かに千秋ちゃんは僕に愛をくれる。でもそれは約束の日だけでしょう?でも、僕の中の声は平日だからって止んでくれない」 声……? 聞き慣れない言葉が聞こえるが、それを気にする間も無く彼は続ける。 「本当なら千秋ちゃんから欲しいんだよ。でも、それは許されてないから彼女たちを使ってる。それなのに、僕は一途じゃないって言うの?」 正直、彼の理論や苦しみはよく分からない。でも、どうしても腑に落ちないところがあって、反論しないわけにはいかなかった。 「なんで拓海は、いつも僕の気持ちを決めつけるんだよ」 拓海は馬鹿だ。賢いくせに、僕の好きなものを何でも知ってるくせに、拓海に対する気持ちだけは言葉にしないと受け取れないなんて。 「一途じゃないって言うよ。だって、僕は女の子といる拓海を見てるのが嫌だから」 もともと近付いていた距離を、もう一歩詰める。彼のするように彼の顎に手を添えて、軽くキスをした。 「なん、で……?」 驚く彼を、僕に対しては臆病な彼を安心させるように、僕は言った。 「僕だって嫉妬してるんだから」

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