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第50話
断続的に与えられる刺激が、『気持ちいい』という言葉の形へと変わる。苦しい、無理、と思った時に絶妙に与えられるそれは、まるでご褒美を与えられているようだった。
「ん、あ……」
苦しいと気持ちいい。2つの感情を繰り返すうちに、だいぶ状況は変化していたらしい。バラバラと不規則に、さっきよりも大きく動かされるそれに、拓海の指が本当に2本とも入ってしまったのだと分かった。
「もう少し、かな」
そう言って2本の指が横に開かれる。すっと冷たい空気が通る感覚に、思わず身震いをした。
そうしてまたしばらく、同じ行動が続く。
何分かの後にふと拓海の動きが止まって「多分、もういいよね」と独り言が聞こえた。
何が、と問う前にカチャカチャとベルトを外す音が鳴る。そのまま何の躊躇もなく服が脱がれ、露わになったそこには自分のよりも一回り大きく見える立派なーー。
「なんで、もう……?」
現れたのは、触るどころか一瞬だって触れていないのに興奮しきっていたそれ。
「千秋ちゃんが可愛いから」
軽く握られた手が導かれて触れたそれは、予想どおり硬くて熱を持っていた。
普通なら引くところだろうに、心に浮かんだのは『嬉しい』の感情。
何となくしたくなって緩く握れば、拓海は2回ほど首を横に振って僕の手をそっと外す。
その代わりうつ伏せの体勢になってほしいとお願いされて、力の入らない身体を腕で支えながらもゆっくりと従った。
「んんっ!」
なんの前触れもなく指が抜かれたせいで、変な声が出る。拡げられたそこはその状態を保とうとしているのか、中にまだ何かが入っているようで落ち着かない。
「な、に……?」
そしてちょうど指のあった部分に、何かが触れる。硬くて熱いその何かは、手に残る感触によく似たもの。
「やっと、だね」
嘘だろ……?と冷静になる頭に沁みる、拓海の甘い声。それに安心したのも束の間、予想が現実へと変わる。
「っ、ぁ、うそ……っ!」
指とは比べ物にならない質量。あまりの苦しさに、また呼吸が浅くなる。
「……っ、千秋ちゃん、息、吸って」
締め付けている感覚はあって、苦しそうな声に拓海も痛いんだろうなと申し訳なくなった。でも力の抜き方なんて分からない。
「大丈夫、だから」
少し進んで、慣れるまで待って。苦しいと言えば、頭を撫でてもらえる。永遠とも思える時間が過ぎてやっと止まったかと思えば、拓海が背中に覆い被さってきた。
「これで、千秋ちゃんと1つだ……」
声が震えているのは、きっと泣いているからなんだろう。拭ってあげたいのに、背中に抱きつかれているせいで顔を合わせられない。
「愛してる。ずっと、ずっと」
くすぐったかった「愛してる」の重みが、ぐっと増したような気がした。
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