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第51話

「拓、海……?」 そのまま眠ってしまったんじゃないかと思うほど、彼はピクリとも動かない。 「なに?」 どうして泣いてるのかわからなくて、また何か不安になっているのだろうかと心配になった。また悲しい想像をしているなら、「僕は拓海から離れないよ」って取り除いてあげたい。 「また、何か考えてる……?」 自分でも驚くほどの細い声が出て、まるで僕の方が不安みたいだと思った。そんな僕に彼は緩く笑って、抱き締める腕に力を込める。 「ううん。ただ、幸せだなぁって」 その言葉は、僕の心にも幸せを広げる。良かったと嬉しいが溢れて、あったかいものでいっばいになる。 だって拓海が、幸せだって言ってくれたんだ。 胸が熱くなって涙が移る。あまりに自然に流れたそれは、頰を伝うまで泣いたと気付けないほどだった。幸せな時に出る涙なんて本当にあるんだと知って、それが共有できた幸せが幸せを倍増する。 「拓海、約束の更新しようよ」 涙と一緒に拓海の悪い癖も移ったようで。今度は僕が、確かなものを欲しくなった。 「更新……?」 「だって、僕はずっと拓海に本心で話してるし、今日こうやってもう1つの約束も達成した。だから、新しい約束がほしい」 表情は見えなくて、言葉も返ってこない。きっと続きを促してくれているんだと思って、ずっと我慢してきたことを言ってやった。 「もう、僕以外から補給しようとしないで」 流石に「浮気しないで」と言うのは憚られて、でもきっと、拓海になら伝わるはず。 それでもなかなか返ってこない返事に、呆れられたのか、それとも本当に意味が伝わっていないのかと不安になった。 「千秋ちゃん、動いていい?」 やっと返ってきたと思った言葉は予想外で、頭がハテナで埋め尽くされる。だから何も答えなかったのに、彼は返事を聞くことなく動き出した。 「まっ、返事……!」 苦しいと気持ちいいの波がまたやってきて、考えられる部分が小さくなる。でもうやむやにされるのは嫌で、必死に縋った。 「やだっ、お願い……約束して」 めんどくさい人間になっていると自覚していて止められない。約束なんかいつでも破れるのは分かっていて、でも少しでも証がほしい。 「やっ、あっ、おねが……」 拓海が近付いて離れてを繰り返す。だんだんそのスピードが速くなっていって、気持ちいいの比重が大きくなる。 「千秋ちゃん、」 ぼやけていく思考の中でもはっきりと聞こえる拓海の声。 「僕はずっと千秋ちゃんのモノだから。だから千秋ちゃんも、ずっと僕の側にいて……」 そう聞こえてすぐ、これがラストとでも言うかのように拓海の動きが激しくなる。 「だめ、やっ、ぁぁぁっ!!」 「はっ……僕も……」 ドクン、と身体が跳ねる。ここは拓海の家で、下はシーツで。そんなのもう、頭になかった。 ズルリと抜かれたそこがやけに熱い。イったばかりの身体は怠くて、もう動かせそうにない。それでも拓海の顔が見たくて、頑張って起き上がる。 涙の跡の残るその顔はいつにも増して綺麗で、空間には幸せが満ち満ちていた。

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