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第54話
目を開けて、目覚まし代わりのスマホを手で探すも、一向に硬い感触がやってこない。
それから「そういえば音が鳴っていない」と気付いて、「今日のベッドはやけに柔らかいな」と思って、最後に今日は土曜日で、ここは拓海の家なのだと気付く。
「あっ、おはよう千秋ちゃん」
珍しく早起きなんだなと思いながら「おはよう」を返した。起き上がって机に置いてあった自分のスマホを見れば、12時という時間に驚いてーーそれ以上に、着信とメッセージの量に驚く。
大変まずい。
昨日は放課後そのまま拓海の家に来て、あんなことをしたからか眠気がすぐに襲ってきて。
つまり、母に何も連絡をしていない。
予想通りそこには心配と怒りのメッセージが並んでいて、申し訳なさでいっぱいになった。
「ごめん拓海、今日はもう帰る」
画面を見せて言えば事情を察してくれたようで、左手にぶら下がっていた手錠が外される。
「じゃあまた!」
急いで靴を履いて、扉を開いて。一歩踏み出そうとしたところで、もう1つしておきたかった約束を思い出した。
「なぁ、拓海が嫌じゃなければ明日から一緒に登校しないか?……って前は僕が断ったんだけど」
きまりが悪くて途中から下を向きながら。でも小指のたった拳を上にあげて、拓海の指が触れるのを待つ。
「……もちろん。頑張って早起きするね」
そう言って指が絡められたのと同時に、引っ張られるのを感じた。驚いて顔を上げると、拓海はそこにそっと口付ける。再び指が離れるまでのそれは、とても綺麗な所作だった。
「じゃあ、また明日」
早く母さんに謝らないとという焦りと、拓海のせいで生まれた恥ずかしさ。急いで扉を閉めて、ほんの数メートルしかない道のりを急ぐ。
勇気を出して「ごめんなさい」と叫びながら扉を開けた。連絡を忘れていたと言えば、夕飯もお風呂もまだだったのにどうしたら忘れるのかと怒られて。
連絡を忘れるほどの特別な事情は話せないから、心の中だけで反論をした。
でも最後には
「とにかく無事で良かった。あんまり拓海くんに迷惑かけちゃダメよ?それくらいならむしろうちに連れて来なさい。あと、今度からはちゃんと連絡をすること」
と言ってくれて。来週は、僕の家で過ごすのもいいのかもしれないと思った。
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