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第55話・4週目[獲得]
そうしてまた、1週間が始まる。
今までとは確かに違う1週間が。
「おはよう、千秋ちゃん」
時刻は7時半。約束した時間ぴったりに拓海は来てくれた。その言葉が外で聞けるのが新鮮で。
「おはよ、寝坊しなかったんだな」
その嬉しさを隠すように、いつものネタで拓海をいじる。
「千秋ちゃんの為ならいつだって起きれるよ」
それに気付いていないのか、それとも気付いていて言っているのか。思い掛けず甘いセリフが返ってきたものだから、嬉しさと同時に恥ずかしさも増す。
「行こっか」
それでも、そう言って差し伸べられた手を取る勇気は出なくて。
「いつ知り合いに会うか分からないだろ」
と言って手をポケットにしまってしまう。
「残念。じゃあ今度は遠くに行って、手を繋ぎながらデートしよっか」
流石の拓海も冗談のつもりだったようで、軽く笑って手袋をした後にそんな提案をした。
「手を繋ぐためだけに遠出するって、贅沢な話だな」
そう言いつつ期待している自分がいるのには気付いている。その証拠に、何もしていないのに身体があったまっていくのを感じた。
遠出って何処に行くんだろう、拓海は行きたい場所とかあるんだろうか。
そう考えて、あっと思い出した。
「そっか、今週から冬休みだっけ」
今日は17日で、今週の金曜日は終業式。今年は土日の位置の関係で、少し早めの冬休みらしい。もちろんその代わり、始業式は早いのだけれど。でもそれはつまり、来週の火曜日がクリスマスに当たるってことだ。
どうせなら土曜日だったら良かったのに。そうしたら、イブも当日も、拓海と2人で過ごすことができた。そう考えているとまた、拓海が嬉しい言葉をくれる。
「冬休み、たくさん思い出作ろうね。来年遊べない分も」
でも最後に付け足された言葉が余計で、不安が胸を覆った。来年何かあったっけ……?もしかしてこの関係は、最初から1年だけのつもりだったのか……?と。次々に悪い想像が頭をよぎる。
でもそんな僕に、拓海は緩く笑った。
「でも、勉強に疲れた時に少し会うくらいなら、バチは当たらないかな」
それを聞いて、あぁ受験かと納得する。納得して、1年前からちゃんと考えてるんだなと感心した。
やっぱり、拓海はすごい。
カッコよくて優しくて。きっと僕には想像も出来ないくらい辛い経験もしただろうに、ちゃんと現実を見ながら、前だって見続けている。
そんな彼と隣を歩けていることを、改めて誇らしく思った。
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