56 / 60

第56話

思い出を作るにしたって限度があると思うけれど。でも僕だって、拓海と過ごしたいのだから仕方がない。 「じゃあ今週は僕の家に来る?それでもし予定が空いてるなら、イブとクリスマスは拓海の家に行きたい」 「……いいの?」 「うん、僕の母さんもずっと拓海に会いたがってるから。遠慮はしなくていい」 そう答えれば拓海は、ふるふると首を横に振った。 「それもだけど、それだけじゃなくて。クリスマスに泊まるって、そういう意味だと受け取ってもいいの?」 そういう意味ってどういう意味だと考えて、少しの間のあと言葉を濁さなきゃならなかった意味に辿り着いた。一瞬で、顔に熱が集まる。 「違っ、そういう意味じゃない!」 思わず声を荒げれば、拓海がクスクスと笑った。 「何を想像したの?」 なんて、絶対に分かっているくせに。 「……何にも」 それが悔しくて、それ以降は何を聞かれても黙秘権を行使してやった。それでも拓海はしつこく聞いてくる。 「いいって言ってくれないの?」 「顔が赤いけど、もしかして思い出してる?」 「またしたくない?」 いつになく饒舌で甘えたな拓海。それが朝だからなのか、先週の土日のおかげなのかは分からない。 数分でカッコいいから可愛いに変わった拓海。でもどんな拓海でも、隣に居るだけで「愛しい」が溢れ出してくる。 「うるさい」 やっと出た言葉は、それとは反対の可愛げがないもの。でも拓海は、そんな僕にまたクスクスと笑った。 「なんか、変わったな」 雰囲気が柔らかくなった。翳が薄くなった。 うまく言えないけれど、拓海の本来の光が輝いて、やっと見えるようになったみたいな。 「千秋ちゃんのおかげだよ」 「……だったらいいな」 目があって笑い合う。何も意識していなかった頃とは少し違って、気恥ずかしさが充満した。 まるで付き合いたてのカップルみたいだと思う。本当に、その通りなのだけど。 「おはよー!」 それを破ったのは誰かの声。同じ制服の僕の知らない誰か。女の子だから、きっと拓海の繋がりなんだろう。 「おはよ」 少し硬い声で応える拓海と、僕の方をチラリと見て顔をそらした女の子。そのままスタスタと歩いていった姿に、少しだけ嬉しくなった。 いつも変わる拓海の隣。 でも僕は、僕だけは、きっと今日も明日も拓海の隣を独占できるから。

ともだちにシェアしよう!