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第56話
思い出を作るにしたって限度があると思うけれど。でも僕だって、拓海と過ごしたいのだから仕方がない。
「じゃあ今週は僕の家に来る?それでもし予定が空いてるなら、イブとクリスマスは拓海の家に行きたい」
「……いいの?」
「うん、僕の母さんもずっと拓海に会いたがってるから。遠慮はしなくていい」
そう答えれば拓海は、ふるふると首を横に振った。
「それもだけど、それだけじゃなくて。クリスマスに泊まるって、そういう意味だと受け取ってもいいの?」
そういう意味ってどういう意味だと考えて、少しの間のあと言葉を濁さなきゃならなかった意味に辿り着いた。一瞬で、顔に熱が集まる。
「違っ、そういう意味じゃない!」
思わず声を荒げれば、拓海がクスクスと笑った。
「何を想像したの?」
なんて、絶対に分かっているくせに。
「……何にも」
それが悔しくて、それ以降は何を聞かれても黙秘権を行使してやった。それでも拓海はしつこく聞いてくる。
「いいって言ってくれないの?」
「顔が赤いけど、もしかして思い出してる?」
「またしたくない?」
いつになく饒舌で甘えたな拓海。それが朝だからなのか、先週の土日のおかげなのかは分からない。
数分でカッコいいから可愛いに変わった拓海。でもどんな拓海でも、隣に居るだけで「愛しい」が溢れ出してくる。
「うるさい」
やっと出た言葉は、それとは反対の可愛げがないもの。でも拓海は、そんな僕にまたクスクスと笑った。
「なんか、変わったな」
雰囲気が柔らかくなった。翳が薄くなった。
うまく言えないけれど、拓海の本来の光が輝いて、やっと見えるようになったみたいな。
「千秋ちゃんのおかげだよ」
「……だったらいいな」
目があって笑い合う。何も意識していなかった頃とは少し違って、気恥ずかしさが充満した。
まるで付き合いたてのカップルみたいだと思う。本当に、その通りなのだけど。
「おはよー!」
それを破ったのは誰かの声。同じ制服の僕の知らない誰か。女の子だから、きっと拓海の繋がりなんだろう。
「おはよ」
少し硬い声で応える拓海と、僕の方をチラリと見て顔をそらした女の子。そのままスタスタと歩いていった姿に、少しだけ嬉しくなった。
いつも変わる拓海の隣。
でも僕は、僕だけは、きっと今日も明日も拓海の隣を独占できるから。
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