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第4話

 バスルームで丁寧に解された後、ベッドへと運ばれた。未知の感覚に全身が震え、力が入らない。 「徳川さん、かわいい」 「……かわいい、は、よせ」  この年でかわいいと言われるのは抵抗がある。しかし藤原はやめなかった。 「これから、もっとかわいくなりますよ。覚悟してくださいね」  覆いかぶさってきた。胸の突起を舌先で撫でられる。猫がミルクを飲むように舌を動かされ、徳川はびくびくと全身を震わせた。 「あっ、……あっ、あぁっ」  いつの間に購入したのか、藤原の手にはローションがあった。徳川の足を開かせると、そっと垂らしていく。さんざん解された場所にローションを丁寧に塗り込まれ、徳川は軽くのけぞった。 「挿れますね」  開かれた徳川の両膝をつかみ、ゆっくり腰を進めていく。強引さはなかった。優しく、だが力強く、じっくりと徳川を貫いてくる。 「はぁ……あっ……あぁっ……ん……」  苦しげに眉根を寄せながら、徳川は身じろいだ。  藤原は少しずつ速度を変えていく。初めのうちはゆっくりだが、だんだん速くなっていく。屹立の先端が狙ったようにある箇所を突いた瞬間、徳川の目の前で星が散った。 「うっ、あぁっ」  意識がどこかへ引きずられていく。だんだん何もわからなくなっていく。生まれて初めてのセックスで、しかも男に抱かれている。何もかもが未知で、もうわけがわからなくなった。  それからは完全に流されていた。わけがわからぬまま体内を貫かれ、身体のあちこちにキスされた。時間が長かったのか、短かったのかすらもわからない。  気づけば終わっていて、ベッドの中で徳川は抱きしめられていた。 「……徳川さん」  急に藤原の声のトーンが変わった。 「今、これを話すのは卑怯なのかもしれません。でも、いつか伝えなきゃと思っていたことがあります」  徳川はぼんやりと顔をあげた。疲労感が強く、眠気さえもある。後ではいけないのだろうか。どうしてこのタイミングで。もやもやと考えていると、藤原が口を開いた。 「このことを話す前に、あなたを僕のものにしておきたかった。そうじゃないと、安心できなかったんです」  藤原の声が重い。なにか重大な話のようだ。眠気に負けそうだったが、かろうじて意識を彼に向ける。 「まず、僕の父親は藤原(ふじわら)元康(もとやす)です。あなたの、高校時代の同級生でした」  徳川は目を見張った。一気に目が覚めた。もしかしたらと思っていたが、まさか本当にそうだったとは。 「……薄々、気づいてた。もしかしたらそうなんじゃないかって」 「僕も、気づいてました。あなたの目が僕を追っていたこと、そして僕を見ているわけじゃないこと。僕の向こう側にいる父を想っているんじゃないかと」 「……どうして」  藤原がためらうように息をついた。 「父は、五年前に他界しました。肺ガンです。入院中、僕は父からあなたの話を聞きました」 「……え……?」  徳川の思考が停止した。 (……今、なんて?)  ――藤原元康と出会ったのは、高校一年の頃だった。  同じクラスだった。気づけば目で追っていた。  どうにかなろうとは思っていなかった。片想いでいいと思っていた。  多くのことは望まない。見ているだけでいい。  そのはずだった。  会話はしたことあるが、親しくなるほどではない。  二年生になり再び同じクラスになったが、その距離感は変わらないままだった。  やがて、元康に彼女がいるらしいことを知った。  ショックだった。だが、同時に仕方がないと自分に言い聞かせた。  しかし諦めきれなかった。  自分の気持ちを知れば、彼の心も変わるのではと、妙な考えを持つようになり、二年生が終わる前にとうとう告白をした。  元康は、気色悪いものを見るような目で、徳川を見た。  そして思いっきり拒絶されたのだ……。  自分の期待が単なる思い上がりだったことを知った。彼女のいる元康が、徳川を受け入れるはずがなかった。最初から望みなどなかったのだ。  三年生になると、違うクラスになった。安堵すると同時に、悲しかった。  未練たらたらな自分に嫌気が差し、地元から離れる目的で東京の大学へ行った。  もう二度と恋などしない。もう誰のことも好きにならない。徳川はそう心に誓い、その後の人生を生き続けてきた。 「――親父は、後悔してたんです。あなたを傷つけてしまったことを。二十年以上もずっと」  徳川は顔をあげて藤原を見た。 「卒業アルバムの写真で、あなたの顔を知りました。きれいで、かわいくて、どうして親父はこの人をふってしまったんだろうって思いました」  藤原の手のひらが、徳川の頬を包む。苦しさで、涙が溢れそうになった。 「親父の懺悔の話を聞いて、僕はあなたを探しました。ごめんなさい。探偵に依頼して、あなたの居場所を突き止めました。ちょうど僕は大学生だったので、うまくやれば、あなたのいる会社に入れると思って目指しました」  ――でも、と藤原が続けた。 「でも、僕は怖かったんです。この一年、あなたが僕を見るたび、僕じゃなくて僕の後ろにいる父を見ていたことに。何かを懐かしみ、でも恐れる顔で、僕を見ていたことに。あなたの中に父がまだ根強く残っていたことに」  藤原の手が、優しく徳川の髪を撫でた。 「僕を僕として見てほしかった。あなたを愛し、あなたに愛されたい。年齢差なんてどうだっていい。僕が愛しているのはあなただけなんです、実乃理さん」  急に名前で呼ばれ、徳川はどきりとした。

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