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第7話
厳しい顔か、不敵な笑みしか知らなかったけど、月野さんって、こんな表情もするんだ……。
そういえば、ここまでオレを抱いてきてくれたのも、あれ月野さんだったのかな?
そんなひなたの疑問に答えるように月野が言った。
「ひなた、おまえ軽すぎるぞ。ちゃんと食ってるか?」
……ああ、やっぱりあれは月野さんだったんだな。
ゆらゆらゆらゆら運ばれて、なぜか昔の父さんを思い出した……。
「いくらモデルだからって、少しやせ過ぎだ。まさかダイエットとかしてるんじゃないだろうな?」
「そんなことしてませんよ。ちゃんと食べてます」
「そうか? 胸なんかガリガリじゃないか」
「え? あれ? わっ!? 胸の詰め物がっ……!」
気づけばブラジャーのホックが外され、カップの中に入れてあった詰め物が、全部外へ出されている。
「大丈夫。勝手に入るなって、スタッフには言ってあるから。呼吸が苦しそうだったからオレが取ったんだよ」
「そ、そうですか」
女の子じゃないんだから、別にどうってことないことのはずなのに、どうしてか恥ずかしい。
そのとき月野が唐突に聞いてきた。
「……おまえさ、どうして女のふりまでしてモデルのオーディション受けたんだ?」
「それは……賞金が欲しかったからです」
「どうしてそこまでして金が欲しいんだ?」
「高校の学費と当面の生活費が欲しくて」
「……親は?」
「一年前に事故で亡くなりました。二人とも」
「そうか……」
月野はさすがに神妙な表情になり、切れ長の目を伏せた。
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