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第16話
月野への恋は、叶うことが決してないものだということは、ひなた自身とてもよく分かっている。
でも、叶わないと分かっていても、抑えられないのが恋である。
……月野さんの奥さんってどんな人なんだろう? きっととても綺麗で優しくて品が合って、色っぽくて……。
そう、あんなにかっこよくて魅力的な月野さんの奥さんになれる人だもん。オレなんか足元にも及ばないんだろうな。
こういうレストランにも二人きりで来ることもあるんだろうな。んで、オレみたいにマナーが分からなくて狼狽えることなんかまったくなくって……。
ひなたはちょっといじけてしまった。
そして、そのいじけた心がちょっとした悪魔の囁きをしてくる。
(おまえだって、来年には十八になるじゃないか。十八と言ったら、もう結婚もできるし、イケナイ映画だって観れるんだぞ)
ふと、ひなたの視線が月野の飲みかけのワインに向かった。
……だめだよ。お酒は二十歳になってから。
(んなもん、ちょっとくらい飲んだって構わないよ。大人の世界の第一歩だ)
……うーん。
(ほら、ぼやぼやしてたら月野さん、戻って来ちゃうぞ。飲んでみたいんだろ? ワイン)
いじけた悪魔の囁きに言い負かされて、ひなたはそろそろとワイングラスに手を伸ばすと、それを一口飲んだ。
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