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第22話
きっとオレ、タクシーの中で眠っちゃったんだな。それで月野さんが部屋までオレを運んでくれて……。
ひなたが懸命に昨夜からの記憶を反芻していると、月野が身じろぎし目を覚ました。
「……あー、眠っちまったな……」
月野は軽く頭を振ると上体を起こした。ひなたと月野の目と目が合う。
「おはよう、ひなた。二日酔いにはなってないか?」
「…………」
「ひなた? まだ寝ぼけてるのか?」
「あ、あの、ど、どうして月野さんがここに?」
「おいおい、憶えてないのかよ? おまえがオレのスーツの裾をつかんで離さないから、帰れなかったんだよ」
「えっ!? そんな、嘘……ごめんなさい」
ひなたはわたわたと謝った。
「いいよ。そんな顔しなくても、怒ってないから」
「で、でも月野さん、それじゃ昨夜は寝てないんじゃ……、本当にごめんなさい」
「さっき少しうたた寝したし。一晩くらい寝なくても、どうってことないよ。それにひなたの盛大な歯ぎしりも聞けたし」
「えっ? 嘘? オレ、歯ぎしりなんかしたの?」
「おもしろい寝言も言ってたよ」
「……な、な、なんて?」
ひなたが恐る恐る聞くと、月野は吹き出した。
「嘘だよ、スウスウ気持ちよさそうに眠ってた」
笑いながら、腕時計に視線を落とす。
「……ああ、もうこんな時間か。事務所に顔出さなきゃいけないから、オレ、もう帰るよ」
月野は立ち上がりながら、ふと思い出したように、ひなたの顔を見ると、厳しい声で注意した。
「ひなた、昨夜は大目に見たけど、これからは二十歳になるまで、絶対に飲酒はだめだぞ。芸能界はそういうのにうるさいからな。ちょっとくらいいいだろう、が命取りになる場合もあるんだからな」
「はい。ごめんなさい」
シュンとなって謝ると、月野はひなたの頭をポンと優しく叩いてから、一度大きく伸びをして、玄関に向かう。
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