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第23話
ひなたも慌ててベッドから出ると、月野のあとを追いかけた。
「事務所に直行するの?」
「いや。着替えをしたいから、一度マンションへ帰ってから行くよ。……ひなた、また十時に迎えに来るから、ちゃんとそれまでに用意しておけよ。朝飯もちゃんと食って。今日から演技のレッスンが始まるんだから。それと事務所のサイトに載せる写真撮影もあるから、そのつもりでな」
「はい」
「それじゃ。あとでな」
そう言うと、月野は慌ただしく、ひなたの部屋を出て行ってしまった。
一人残されたひなたは、ひどい寂寥感に襲われていた。
両親を失ってから、ずっと独りきりで生きてきて、今ほど寂しさを感じたことはなかった。
「オレって、ほんとバカ」
一晩中、月野さんがこの部屋でオレの傍にいてくれたというのに、眠っちゃってたなんて……勿体ない。
……でも優しいね、月野さん。
オレの手なんか振りほどいて帰ることもできたのに……。
朝帰りなんかしちゃって、奥さんに叱られない?
そのことを思った途端、ひなたの胸は引き裂かれるように痛んだ。
どうして、とひなたは思う。
どうしてもっと早く、奥さんよりも早く、月野さんに出会えなかったんだろう?
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