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第25話
世間が浮かれまくるクリスマス・イブ。
街ではジングルベルが鳴り響き、スーパーではクリスマスケーキが山ほど積まれている。そんな日の午後。
二学期の終業式を終えたひなたは、都内にあるシャイン芸能事務所の一室に来ていた。
今日はひなたにとって本当の意味でのデビューの日だった。
近くのスタジオでアイドル雑誌のインタビューと写真撮影があるのだ。
ドアが開き、月野が入ってきた。
「ひなた、緊張してるみたいだな」
「うん。少しね。写真撮影はモデルの仕事である程度なれてるけど、インタビューを受けるのなんて初めてだから、どんなこと聞かれるのかなって」
「大丈夫。そんなムチャクチャなことは聞かれないよ。ただ言葉遣いに気を付けて、礼儀だけは正しくしろよ」
月野は大きな手でひなたの頭を優しく撫でてくれた。途端に緊張が和らいでいく。
「はい」
ひなたは笑顔でそう答えた。
「そろそろ時間だ。行くぞ、ひなた」
腕時計に視線を落とした月野がうながす。
「はい」
高鳴る鼓動とともにひなたは立ち上がった。
「クリスマスプレゼントはなにが欲しい? ひなた」
アイドル雑誌の仕事を終え、事務所に戻る車を運転しながら、月野が聞いてきた。
「え?」
「デビュー初日の仕事も無事終えたし、演技指導の先生がおまえはすごくがんばり屋だって褒めていたからな、そのご褒美も兼ねて、クリスマスプレゼント、欲しいもの言ってみろ」
「もの、しかだめ?」
「? どういう意味だ?」
「オレ、月野さんのマンションへ行ってみたい」
ひなたはダメもとで言ってみた。
クリスマス・イブなんて、月野さんは奥さんと二人きりで過ごすに決まってるから、オレみたいなお邪魔虫を、家へ入れてくれるわけがないよね。
だが、月野はあっさりと、
「いいよ」
そう答えた。
「えっ? いいの!?」
「ああ。オレ、事務所でまだ仕事残ってるから、それ終わるまで待っててもらわなきゃいけないけど。それでもいいか?」
ひなたは声も出せずにこくこくとうなずいた。
……月野さん、奥さんをオレに紹介してくれる気なんだろうか?
月野さんの奥さん……、会ってみたいようで、会いたくないようで、オレとしては複雑だけど……。
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