28 / 55
第28話
「ごめん。普段はあまり意識してないからな。この指輪のことは」
「じゃ、じゃあ本当に月野さんって、奥さんいないんですか?」
「奥さんどころか彼女もいないよ。この部屋見ても分かるだろ? 女っ気がないの」
そう言われてみれば、月野の部屋は綺麗に整理整頓はされているが、すごく殺風景でもある。確かにもし奥さんがいたら、もっと生活感があるはずだし、彼女の存在があれば、花の一輪でも飾ってあるだろう。
「…………」
ひなたの大きな瞳に涙が溢れてきた。
「お、おい、ひなた? どうしたんだ?」
突然のひなたの涙に、月野が困惑している。
「……良かった……」
「ひなた……」
月野がひなたの細い体を抱き寄せ、優しく頭を撫でてくれた。
「バカだな、おまえ。そんなこと気にしてたのか?」
「だって……、だって、オレ、月野さんが――」
「ひなた」
月野がひなたの唇に人差し指を当て、その先の言葉を言わせてくれなかった。
「……腹、減ったな。宅配ピザでも取るか」
ひなたの心を置き去りにしたまま、月野は奥の部屋へと行ってしまった。
ともだちにシェアしよう!