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第29話
ダイニングのテーブルで宅配ピザのMサイズ二枚の夕食を済ませたあと、リビングに場所を移して、実はひなたのためだったクリスマスケーキを食べた。
ケーキの上にのったトナカイやサンタクロースの砂糖菓子に少し心が華やいだが、それでもひなたの心には屈託が残っていた。
……月野さん、さっきオレがなにを言いたかったのか、分かっていたよね? なのに、なぜ言わせてくれないの?
気持ちに応えてくれなくってもいい。せめてオレの思いを伝えたかったのに……。
それに、あの指輪。離婚したなら、どうしてまだ指輪しているの? もしかしてまだ元奥さんのこと忘れられないの?
「……なた……、ひなた?」
月野に名前を呼ばれ、ひなたはハッと我に返った。
「あ、ごめんなさい……」
月野はひなたのほうをなにやら意味ありげな顔で見ていたが、おもむろに口を開いた。
「ひなた、なにをそんなに気にしてるんだ? ……聞いてやるから言ってみろ」
ひなたは少し迷ってから、
「……その指輪、どうしてしてるの?」
まずそのことを聞いてみた。
「これはオレの戒めなんだよ」
「戒め?」
「そう。もう二度と結婚を考えないようにってね」
月野は薬指の指輪に触れながら、自嘲めいた声音で言った。
「元奥さんが忘れられないから、してるんじゃないの?」
「違うよ。だいいち、これは結婚していたときにはめていた指輪じゃない。あの頃の指輪はとっくに処分した。この指輪は離婚したあと、新しく買ったものなんだよ」
元奥さんが忘れられないのではないと分かり、ホッとしたのも束の間、ひなたは月野の言葉に困惑してしまった。
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