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第31話
今日は初めての雑誌のインタビューと写真撮影で、気疲れしたのだろう。
月野はひなたをお姫様抱きして、奥の寝室まで運んだ。
こんなふうにひなたを抱き上げて歩くのは、三回目だった。相変わらず華奢で軽い体。
突然の来訪だったため、ひなたは着替えがなく、月野のパジャマを貸したのだが、ぶかぶかである。
セミダブルのベッドにひなたを降ろすと、寒くないように毛布でくるんでから、布団をかけてやる。
月野はベッドに腰かけて、ひなたのなめらかな頬にそっと触れた。
ひなたの気持ちに、はっきりと気づいていたわけではなかった。……いや、気づくのが怖かったのかもしれない。
でも今日、ひなたは月野に思いを伝えようとしてきた。それをとめたのは、やはり怖かったからだ。
月野が自分の気持ちに向き合うのが。
初めてひなたを見た瞬間から、月野は彼に強く惹かれていた。
会う度に、知る度に、強く惹かれていき、気づけば、ひなたに恋心を抱いている自分がいた。
もう二度と恋なんかするものかと、強く思っていたというのに。
だが、月野は自分の気持ちをひなたへ伝えようとは思わない。
ひなたはまだ十七歳のうえ、両親を事故で亡くし、ずっと独りぼっちで生きてきた。
だから今は、すぐ傍にいる月野に、一途なまでに気持ちが向いているだけだ。
これからひなたは華やかな世界で生きていき、たくさんの人と出会うだろう。
そしたらすぐに月野への恋心は余所へ向けられると思う。
不意に月野の胸が鋭く痛んだ。
オレは、ひなたの心が離れていくのが怖いのか……?
……ああ、怖いよ。こんなにも切ない思いを誰かに抱いたのは、思えばひなたが初めてだ。
結婚までした彼女にさえ、ここまでの狂おしい恋心は持たなかった。
自問自答したあと、自らを嘲り笑う。
マネージャー失格だな、オレは。
でも、それでも……。
穏やかな寝息を立てるひなたに、月野はそっと顔を近づけていき、柔らかな唇に自分の唇を重ねた。
好きだよ……、ひなた。
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