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第44話
「……なんでも?」
「うん。なんでも」
「それはちょっと、すぐには承諾しにくいな。おまえ、めちゃくちゃなこと言いださないか?」
月野が難色を示すと、ひなたは首を傾げて聞き返してきた。
「めちゃくちゃなことって……?」
「……熱湯風呂に入れとか、女装してみせろとか、言いださないか? おまえ、ひなた」
「そんなこと言わないよ。……でも待てよ。月野さんの女装は見てみたいかも」
ひなたはキラキラと目を輝かせる。
「きっと綺麗だと思う。月野さんの女装姿って」
「……おまえの言うこと、なんでも聞くっていうプレゼントは却下だな」
「あー、うそうそ。そんなムチャなこと言わないから。月野さんが本当に嫌なことは断っていいから。ね、できる範囲で構わないから、オレの言うことなんでも聞いて」
ひなたは拝むようにして、月野にそのプレゼントをねだってくる。
「しかたないな。本当にできる範囲でだぞ?」
「うんっ」
ひなたは満面の笑みを浮かべてうなずいた。
「それじゃさっそく一つお願いしていい?」
「……ああ」
月野は少々身構えて答えた。
「あのね、オレの作った料理を食べて欲しいんだ」
「え?」
「オレがここで泊るときって大体デリバリーか、月野さんが簡単なものを作ってくれるか、でしょ? 一度オレの手料理をごちそうしたかったんだよねー」
「でも、おまえの誕生日なのに……」
月野が少々戸惑っていると、ひなたはソファから立ち上がりながら言った。
「とにかくオレ、月野さんに手料理食べてもらいたいの。いいでしょ?」
そのままダイニングまで行くと、テーブルの椅子にかけてあった青いエプロンをつけ、冷蔵庫を物色し始める。
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