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第53話

 そのまま長い口づけを楽しんでから、ゆっくりと唇を離すと、名残りを惜しむように二人のあいだに煌めく糸が引いた。 「……ふ……」  小さな吐息を漏らし頬を上気させて、口づけの余韻に浸るひなたがとても艶めかしい。  月野はサイドテーブルの下に隠していた紙袋の中から、赤いビロードの箱を取り出すと、ひなたの前に置いた。 「……月野さん、これ?」 「もう昨日になっちゃったけど、誕生日のプレゼント」  ひなたは大きな目を更に大きく見開く。 「えっ? でも、だって……これって……」  そう指輪である。  ひなたは震える手でビロードの箱を開けると、みるみるうちに瞳に涙があふれてくる。 「これ、オレがもらっていいの? だって月野さんには二つもプレゼントもらっているのに……」 「オレが贈りたかったんだよ、ひなたに」 「月野さん……」  とうとうひなたの目から大粒の涙が零れ落ちた。 「手、出して。左手って言いたいところだけど、おまえは今から売り出す俳優だからな。右手にしておこう」  月野がそう言うと、ひなたはちょっぴり不満そうな表情をしたが、やがて納得してくれ、右手を差し出してきた。  その手がかすかに震えているのがかわいい。  月野はひなたの右手の薬指にシンプルなデザインの指輪をはめてやると、彼の手の甲へそっとキスをした。  ひなたは涙を零しながら、贈られた指輪にキスをしていた。

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