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第90話
「そう言えば、夏服は着れそう?」
人参フルコースの料理に少し泣きそうになってる先生……綾さんが聞いてきた。
ちょっとだけ怒ってるので蒸し人参を添えてみた。
残したら怒る。
「多分、着れると思います。
でも、まだアンダーシャツ着てた方が安心する気が……」
「そっか、無理はしなくていいからね」
治ったといえども、その痕は残ってたり残ってなかったりでまばらだ。
青アザは完全に消えても、煙草の火の痕は少しばかり残ってたり。
家では晒せても流石にまだ学校はキツい。
「軟膏塗り続けてれば綺麗に無くなるのもあるって医者は言ってたし、気長に待とう」
「……はい」
色々と先生は手を尽くしてくれてる。特別……?扱い、されてるんだと思う。
でも俺はまだ何も返せてなくて、何を返したらいいのか迷っているうちに時間が過ぎてしまう。
先生に飽きられてしまう前に、何か一つでもいいからなぁ。
「こーら」
「うっ!?」
デコピン、された。しかもかなり痛い。
綾さんの表情は少し怒ってる。なんで?俺何も悪いことしてないよね?
「綺月、今何考えてた?」
「え、えっ?」
「俺に見捨てられる前に、とか考えてただろ?」
「!?な、なんで」
「お前なーんか悩む時泣きそうな顔するんだよ」
「嘘……知らなかった」
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