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第92話

身じろぐとちゃぷ、と音を立て水面が揺れる。 何故こんな事に? 「はぁ〜お風呂きもち〜」 「そ、そうですね……」 背中に触れる人肌に少しばかり怯えながら身体を温める。 黒木さんの爆弾発言「一緒にお風呂入ろっか」により急遽一緒にお風呂に入ることになってしまったのだが。 (なんだこの恥ずかしめは……!?) まだ身体を見られる事には抵抗があるし残ってる傷だってあまり見せたくはない。 なのに満面の笑みで手を引かれ服を脱がされてしまえば入るしかなくて。 身体を洗い湯船に浸かれば後ろから抱きつくように黒木さんも入ってきて本格的に逃げられなくなってしまった。 「なんでお風呂なんですか……?」 「ん〜?いやぁ一緒に入りたいな〜と思って」 髪の毛をオールバックにし水滴が垂れる姿はあまりにもカッコよくて心臓に悪い。 浮かべる笑みは無邪気なのになんだこのギャップは。 「〜♪」 「っ、」 「背中綺麗だね〜若いっていいな、肌凄いすべすべしてる」 「別に、綺麗じゃないです……傷だって、まだ治ってないし」 背中を指がするすると辿っていきゆるゆると撫でていく。 まだ背中には煙草の痕が残っていたはず。 多分その痕であろう位置に指先が止まり、労わるように撫でる。 「っ、黒木さ……」 「まだ、痛い?」 「痛くないですけど、でも……」 「…………」 触れられる感覚が離れた、そう思った瞬間柔らかく温かい感触が傷跡に触れた。

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