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第93話

「っひゃ、!?」 それが唇と気づくまでには数秒もかからず。 身体をビクリと震わせ、情けない声を出してしまう。なんでそんなとこに?汚い痕なのに、どうして、 「く、くろきさ、」 「綺月」 耳元で、囁くように。鼓膜の奥を震わせ、じんわりと胸を侵食していく熱。 低く甘える様な声で名前を呼ばれ、息をはくはくとするのに精一杯になってしまう。 腹部に腕が回され、後ろに引かれれば水面が揺ればしゃばしゃとお湯が零れていく。 ぴたりとはりつく肌に身体が跳ね、固まる。 「綺月」 「は、は……っ」 何度も何度も名前を呼ばれ、胸がどんどん熱くなっていく。バクバクと大きな音をたてる心臓は今にも破裂してしまいそうだ。 何故だろう、黒木さんに名前を呼ばれると凄く胸が苦しい。 全身を溶かされるように熱がこもって、息がしづらくなって、敏感肌になったかのように触れられると反応してしまう。 やだ、こんなの、恥ずかしすぎる。 「綺月、こっち向いて」 「っ、」 黒木さんの濡れた髪の毛が肩に落とされ、顔を乗せられているんだと気づく。ゆるゆると、顔を動かし視線を向ければ真剣な眼差しでこちらを見ていた。 視線が交わり、顔がじわじわと赤らんでいくのが分かる。 ぴたりと頬を合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。 しっとりと濡れた唇は熱く、触れているだけで溶けていきそう。 唇を甘く食み、ぎゅっと目を閉じれば歯列を舌がノックする。 「んっ……ふ、ぅ」 恐る恐る開けば、控えめに舌が割り込み口内を掻き回していく。歯列をなぞられ、舌を絡め取られ、上顎を擦られる。経験値の低い自分はすぐに息が上がってされるがままだ。

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