90 / 96
第93話
「っひゃ、!?」
それが唇と気づくまでには数秒もかからず。
身体をビクリと震わせ、情けない声を出してしまう。なんでそんなとこに?汚い痕なのに、どうして、
「く、くろきさ、」
「綺月」
耳元で、囁くように。鼓膜の奥を震わせ、じんわりと胸を侵食していく熱。
低く甘える様な声で名前を呼ばれ、息をはくはくとするのに精一杯になってしまう。
腹部に腕が回され、後ろに引かれれば水面が揺ればしゃばしゃとお湯が零れていく。
ぴたりとはりつく肌に身体が跳ね、固まる。
「綺月」
「は、は……っ」
何度も何度も名前を呼ばれ、胸がどんどん熱くなっていく。バクバクと大きな音をたてる心臓は今にも破裂してしまいそうだ。
何故だろう、黒木さんに名前を呼ばれると凄く胸が苦しい。
全身を溶かされるように熱がこもって、息がしづらくなって、敏感肌になったかのように触れられると反応してしまう。
やだ、こんなの、恥ずかしすぎる。
「綺月、こっち向いて」
「っ、」
黒木さんの濡れた髪の毛が肩に落とされ、顔を乗せられているんだと気づく。ゆるゆると、顔を動かし視線を向ければ真剣な眼差しでこちらを見ていた。
視線が交わり、顔がじわじわと赤らんでいくのが分かる。
ぴたりと頬を合わせ、どちらからともなく唇を合わせた。
しっとりと濡れた唇は熱く、触れているだけで溶けていきそう。
唇を甘く食み、ぎゅっと目を閉じれば歯列を舌がノックする。
「んっ……ふ、ぅ」
恐る恐る開けば、控えめに舌が割り込み口内を掻き回していく。歯列をなぞられ、舌を絡め取られ、上顎を擦られる。経験値の低い自分はすぐに息が上がってされるがままだ。
ともだちにシェアしよう!