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第94話

「綺月は、綺麗だよ」 教え込むように、優しく、溶け込むような声。 「純粋で、控えめで、俺には勿体ないくらい、綺麗な子。 だから、自分の事を汚いなんて言わないで」 黒木さんにそう言われてしまえば、否定なんて出来なくて。 黒木さんは俺の外見じゃなくて、ちゃんと「中身」を見てくれているんだ。 そう思うとじわじわと目元が熱くなってぼやけてくる。 いつかちゃんと、自分で自信が持てて、黒木さんの隣にいても恥ずかしくない自分になりたい。 「約束、ね?」 「…はい」 「ん、いい子」 頭を撫でられ、心地良さに目を閉じる。 黒木さんの性格もあるのだろうが、今までの人生の反動というか、凄く、でろでろに甘やかされている気がする。このままだと本当に黒木さん無しでは生きていけないのでは?という不安にもなってきた。 じと、と黒木さんを見つめると何も知らない不思議を浮かべた顔でこて、とこちらを見つめ返す。あざとい。 「俺がダメになったら、黒木さんのせいですからね……」 「えっなんの話!?」

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