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第95話

「よし、乾いたよ」 カチ、とドライヤーの電源を切る。黒木さんはどうしても俺の髪の毛を乾かしたいと言ってはこうして自分の髪の毛を後回しにして乾かしてくれる。 優しい手つきで慈しむように乾かされた髪の毛はさらさらと流れるように指が通る。 そろそろ目にかかってきて視界が狭まりつつあるので、美容院にでも行こうかな。 「じゃあ、黒木さんの髪の毛俺が乾かします」 「いいの?じゃあお願いします〜」 場所を交換し、ドライヤーを片手に電源をつける。濡れた髪の毛に温風を当て髪の毛を乾かしていく。 黒木さんの髪の毛は少しパサついてて、でも同じ匂いがした。 優しく、なるべく髪の毛を絡ませないように指を通す。 人の為に何かをしたくて、人と同じである事がこんなにも嬉しいとは思わなかった。 好きな人は遠い存在だったのに、まだ夢なんじゃないかって思う時もある。 「…ふは、そこ、くすぐったいなぁ」 「ぁ、こ、ここですか」 耳裏を指が掠めたのか、くすぐったそうに肩を揺らす。 思わずさっと手を引いて、また、そっと耳裏に触れてみた。 するとまた肩を揺らし笑っている。 あぁ、また、黒木さんの新しい一面を見れた。 俺だけしか知らない、貴方の弱点。

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