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第98話
ふ、と眠気が覚め、重い瞼を開ける。視界に映るのはいつしか見た真っ白な天井そっくりで。
横には真っ白いカーテンが引いてあり、ここは保健室なんだと認知した。視界に歪みはなく先程の気だるさ、暑さも感じなくなっていた。
「あ、目、覚めました?」
「……?」
声の方にゆるりと視界を向ける。カーテンの反対側には、人がいた。
短めの黒髪につり上がった瞳はコバルトブルーがよく輝いていた。
「あ、の…」
「先輩、その、倒れてたんで…自分が、運びました。軽い熱中症だって、とりあえず、安静にしてろって、」
控えめに紡がれる低い声に威圧感はなく、あまり怖くはなかった。
「ありがとう、ございます…授業は…?」
「先生には言ってあるんで、大丈夫です。今、保健の先生用事があっていないので、俺が付き添いに」
「そっ、か……ごめんなさい」
「いえ、大丈夫です」
たどたどしい会話を交わし、無言になる。
知らない人と同じ空間にいるのは息が詰まるな、とぼんやり思う。
「……あの」
「っ、はい、」
「なんで、アンダーシャツ……着てるんですか」
喉の奥がキュッ、と閉まる感覚がした。他人には知られたくない、触れられたくない領域。
気になるのも無理はない、こんな暑い中着ているのだから。
だからといって素直に理由を言える訳もない。
「そ、その、寒がりで…」
「でも、今日は流石に着る必要は、ないんじゃ」
もう無理だ、何も聞かないでくれよ。
そう思った時、保健室のドアがガラリ、と開いた音がした。
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