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第8話

「っ、ざけんなよ………糞」 男性は俺の手を離し乱暴に先生の手をあしらった。 俺を一度恨めしそうに睨むと、そのままどこかへ行ってしまった。 「え、と月山君……だよね?こんな時間にどうしたの」 「……………」 言えない。父親に暴力を受けて、同僚の人に売られそうになって逃げてきたなんて。 早く、この場所からにげたい。 先生を見てると、全部話してしまいそうになる。 でも、こんな事言ったら先生は何をしてくれるんだ? ただでさえ醜いこの身体を見て、どんな顔をするの? 考えたくもない事を頭がよぎり、頭痛がしてきそう。 「………とりあえず、家に帰ろう。 親御さんには連絡を……」 「っ、駄目……っ!」 スマホを取り出した先生の手を掴み、必死に頭を横に振る。 嫌だ、嫌だ。あんな場所に戻りたくない。 連絡なんてしたら迎えに来るんだ、そしてまた家に帰ったら殴られるんだ。 まだあの人達もいるかもしれない。そしたら、俺は本当に生きれない。 耐えきれなくなった涙はボロボロと零れ、頬を濡らす。 お願いだから先生、俺を見捨てないで。 「………連絡はしない。だけど、家には帰るよ。 俺がちゃんと連れていくから」 「…………」 あぁ、やっぱり。 先生は優しいから、ちゃんと家に帰してくれるんだ。 ほんの少しだけ、先生ならって、期待をした。 でも、そんな希望ももう終わった。 「………先生」 「ん?」 「手、握って…もらえますか」 せめて、帰りだけ。さっきの事もあって手が冷たい。 人肌の温もりが欲しい。 「分かった」 そう言って先生は俺の手を握ってくれた。少し大きくて、でも指は細くて肌は白くて、温かった。

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