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第9話
人混みの中、手を繋いで家へと帰る。
数人は振り返るけど、すぐに前を向く。
先生と生徒が手を繋いで歩いてるなんて不思議な光景なんだろうな。
しかも、男同士。
(最後にこういう事出来て、良かったかもしれない)
もう二度とない機会、もう二度と触れられないかもしれない。
どんなに汚くても、せめて手だけは触れて良かった。
これで、もう止めれるから。
先生を想うのも、全部、止めれるはずだから。
「…………先生?」
「何?」
「俺の家、こっちの方じゃ無いけど……」
「え?なんで月山君の家に行くの?」
「だ、だって家に帰るって……」
「だから家だよ?」
そう言って、着いたのは少し大きめのマンション。
俺の家では無い。
「ちょ、先生何を………っ」
「バレたらめちゃくちゃ怒られるだろうしやばいけど、泣かれたら流石に帰せないよ」
振り向いた先生の顔は、やっぱり好きで。
想う事を、止めれなくて。
繋いだ手を握ってしまう。
「ふっ………ぅ、う………っ」
「わ!?ちょ、どうしたの!?どっか痛い!?」
突き放して欲しいって気持ちと、助けて欲しいって気持ちでいっぱいになって壊れた心が砕ける。
今まで溜めた涙はとめどなく流れ、頬も服も濡らしていく。
先生はあたふたして俺の頭を撫でてくれた。
温かい、優しい先生の手。
優しくしないでよ、優しくして欲しいのに。
突き放してよ、突き放して欲しくないのに。
好きにさせないでよ、涙が止まらないほどに好きなのに。
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