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第23話
月山の家は他と変わらぬ、平凡な家だった。
ただ、どこか寂しげな雰囲気を感じる。
玄関のチャイムを何回か押して、出てくるのを待つ。
数分後、ガチャリと音がして扉が開いた。ふらふらした足取りで出てきたのは、月山だった。
「先生……なんで、来たんですか」
「あんな事言われてほっとける奴がいるか。とりあえず、親御さんはいるか?」
「っ、いません…お願いだから、帰ってくださ……っ」
「月山!」
身体が傾き、倒れそうになったところをなんとか受け止める。
その時、また見えてしまった。
鎖骨あたりに新しい痣、手に巻かれた包帯。
朝一緒にいた時には無かった、俺の知らない傷。
「月山、お前、誰かに暴力でも……」
「違います!!お願いだから、お願いだから本当に帰ってください!!」
「なぁ、俺じゃ駄目なのか?俺じゃ頼りにならないのか?」
「違う、違うのっ………」
身体を抱きとめて感じたのは、あまりにも柔いその細さ。
軽く抱きしめても、折れてしまうんじゃないかと思ってしまうほどに。
髪の毛の隙間から見える瞳は涙でキラキラと輝いていて、不謹慎にも綺麗と感じた。
「先生は………なんで、俺なんかを気にするんですか。
同情、ですか……?」
「っ、違う。俺は、月山を助けたい」
確かに、何故こんなにも一人の生徒を気にかけているのだ。
特別扱いをしてるつもりではない。
でも、放っておけない。
「俺は……お前を一人になんて出来ない」
「っ………」
「今は話せなくてもいい。俺を嫌ってもいい。
だから、一人で抱え込むのは止めてくれ」
「!」
腕の中にすっぽりと収まる月山を、抱きしめた。
月山は、少しだけ甘い匂いがした。
花とかそういうのではなく、ごく自然に甘い匂い。
心が安らぐような、でもすぐに無くなってしまう。
「今日は家で一人か?」
無言で頷く。
でも、この状態では一人にはしたくない。
「今日も家においで。こんな冷たい身体じゃ風邪引くぞ」
「………………買い出し」
「ん?」
「買い出し、しないと………食べ物、無いですよ」
「そうだな、一緒に行こう」
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