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第29話
少しだけカサついた、生温かい感触。
唇に触れてそれが何なのかに気づくのは数分後で。
「お、涙止まったな」
「…………」
感触が消え、瞳を覗き込む先生。涙も引っ込んだのか止まった。
愛おしそうに頬を撫でると、よいしょ、と立ち上がった。
「もう遅くなっちゃったし、寝ようか」
「………は、はい」
先生の後ろをパタパタとついて行き、寝室へと入る。
手招きをされ、おずおずと近づく。先にベットへ入らされると、後から先生が抱きしめるように潜り込んでくる。
「少しだけ目腫れちゃったな、明日腫れないといいけど」
「大丈夫だと、思い、ます」
「そっか。じゃあ、おやすみ」
「おやすみ、なさい」
寝返りを打って、先生と同じ方向を向く。そしたら、後ろから抱きしめられた。
首元に吐息がかかり、くすぐったい。
少しして、先生の規則正しい寝息が聞こえた。
(………………あれって)
キス、だよね?
先生、俺にキスしたよね?
ぶわぁって、顔から湯気が出そうなくらいに熱がこもる。
手汗が出てきて、少し涼しいぐらいの夜がすごく熱い。
先生にキスされた、俺の唇に触れた。
初めての、ファーストキス。
(俺が泣くから、止める為に……?)
止めるなら他にも方法はあっただろう。その中で、キスという方法を選んだのは、何故?
期待をしてはいけない、でも、少しだけ。
高鳴る鼓動が、先生に聞こえていませんように。
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