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第32話
「月山、月山」
「んぅ……」
「ほら、仕事終わったよ。帰ろう」
「せんせ……」
大分寝ていたらしい。外はもう陽が落ちかけていた。
カーテンはまとめられ窓は閉められていたので先生が閉めてくれたらしい。
「そんなに寝てると夜寝れなくなるよ〜?」
「安心して寝れるの、結構無いので……」
「……そっか」
先生は、何も聞いてこない。
多分、俺がなんらかの暴力を受けているのはこの前で勘づいてるはず。
でも、聞かない。
それが、先生の優しさなんだと。
俺が自分から言うまで、強要することも無くただひたすら待つ。
俺が助けを呼ぶ時まで、ずっと待ってくれてる。
「今日の御飯何〜?」
「うわっ……、えっと、きんぴらレンコンと豚バラ白菜です」
頭にのしっと重みを感じるけど、そこまで体重をかけていないので普通だ。
あぁ、ほらまた。
先生の匂いが鼻を掠める。
何度あっても慣れない、このドキドキ。
慣れてもいいだろ、と思えてくる。
多分片想いだから、いつ離れるか分からないこの幸せを噛み締めてるんだ。
「先生も少しは手伝ってくださいよ」
「え〜俺疲れてるから駄目〜、料理苦手だし」
「じゃあ今度一緒に料理しましょう」
「う〜……」
俺がいなくなった時、どうするんだこの先生。
まさかコンビニ弁当生活する気か……?
「ほら、料理出来たので運んでください」
「はぁ〜い」
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