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第51話

「っは………げぼ、ゴホッゴホ………っ」 「はぁ〜治まんねぇ。これ以上やると死んじまいそうだし、今日はここで止めといてやるよ」 肌に張り付いた髪や服が気持ち悪い。それ以上に、殴られた箇所や器官に入ってきた水が苦しい。 今日はいつにもまして酷かった。会社で気に入らない事がいれば俺に当たる。 いわば俺はストレス解消のサンドバッグだ。 相当気に入らない事があったのか、いつもなら気にして殴らない顔面を殴られ、お湯を張った風呂に頭を掴まれ押し込まれた。 痛い。気持ち悪い。苦しい。泣きたい。もう、嫌だ。 立ち上がる気力が無い。手当する気力も無い。 手をかざして、笑った。 食欲が無くて水以外何も口にしてない為、異様に細くなった腕。 力を入れたら、簡単に折れてしまいそう。 身体も肋が浮いてきて肉付きの悪い身体になっていた。 先生に抱きしめられたら、死んじゃうかな。 それもいいかな。先生に抱きしめられて死ぬのも本望かもしれない。 「………もう、駄目かな」 止めよう。生きるのを。 もう、こんな身体じゃ会えない。こんな身体で生きる価値もない。 何もかもお終いだ。 先生に会えて、良かった。 近くにあった剃刀を手に取り、手首に当てる。 「っ………ぁ…」 強く押して引いて、血が滲む。何度も何度も傷つけ、自分を汚していく。 痛いなんて感覚も、段々薄れてきてくる。 湯船に腕を浸け、そのまま項垂れた。 「生まれ、変わるなら、女の子がいいなぁ……」 裕福な家庭に生まれて、美味しい御飯が食べられて。 両親は怒ると怖いけど優しくて、兄弟がいて。 学校生活は充実して友達もいて。 また、先生に恋をしたい。 あぁ、視界がぼやけてきた。元々血は少ないし、お湯も暖かいし傷は深いから血が抜けるのが早いのかな。 さよなら、この世界。 バイバイ、先生。

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