51 / 96
第51話
「っは………げぼ、ゴホッゴホ………っ」
「はぁ〜治まんねぇ。これ以上やると死んじまいそうだし、今日はここで止めといてやるよ」
肌に張り付いた髪や服が気持ち悪い。それ以上に、殴られた箇所や器官に入ってきた水が苦しい。
今日はいつにもまして酷かった。会社で気に入らない事がいれば俺に当たる。
いわば俺はストレス解消のサンドバッグだ。
相当気に入らない事があったのか、いつもなら気にして殴らない顔面を殴られ、お湯を張った風呂に頭を掴まれ押し込まれた。
痛い。気持ち悪い。苦しい。泣きたい。もう、嫌だ。
立ち上がる気力が無い。手当する気力も無い。
手をかざして、笑った。
食欲が無くて水以外何も口にしてない為、異様に細くなった腕。
力を入れたら、簡単に折れてしまいそう。
身体も肋が浮いてきて肉付きの悪い身体になっていた。
先生に抱きしめられたら、死んじゃうかな。
それもいいかな。先生に抱きしめられて死ぬのも本望かもしれない。
「………もう、駄目かな」
止めよう。生きるのを。
もう、こんな身体じゃ会えない。こんな身体で生きる価値もない。
何もかもお終いだ。
先生に会えて、良かった。
近くにあった剃刀を手に取り、手首に当てる。
「っ………ぁ…」
強く押して引いて、血が滲む。何度も何度も傷つけ、自分を汚していく。
痛いなんて感覚も、段々薄れてきてくる。
湯船に腕を浸け、そのまま項垂れた。
「生まれ、変わるなら、女の子がいいなぁ……」
裕福な家庭に生まれて、美味しい御飯が食べられて。
両親は怒ると怖いけど優しくて、兄弟がいて。
学校生活は充実して友達もいて。
また、先生に恋をしたい。
あぁ、視界がぼやけてきた。元々血は少ないし、お湯も暖かいし傷は深いから血が抜けるのが早いのかな。
さよなら、この世界。
バイバイ、先生。
ともだちにシェアしよう!