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第52話
深い、深い、暗い世界。
手を伸ばしても目を開いても、全部黒で埋め尽くされて。
ここはどこだろう。ずっとここに居たい。
そうすれば、嫌な事も考えなくて済むから。
綺麗じゃなくていい。
何も無い、無の世界に一人閉じこもっていたい。
‘……………………………’
何か、聞こえた。
誰だろう。邪魔しないでよ。
俺はずっとここに居るんだから。
‘……………………ぃ’
でも、なんだろう。
凄く聞き覚えのある声。とても、大切な気がする。
何を言ってるのが聞き取れない。もっと耳を澄ましてみる。
‘…………………を、………せ’
?もっと、もっと大きな声で。
声が聞こえる方を向いて、少しだけ手を伸ばしてみる。
届かないかもしれないけど、でも、伸ばしてみたいと思える。
‘…………月山、’
あ、少しだけ聞こえた。俺の名前を呼んでる。
誰だろう。
もっと奥に手を伸ばす。
だんだん光が見えてきて、そこから声が聞こえてくる。
‘手を伸ばせ、月山’
向こうからも、手を差し出される。すべてを包んでくれそうな、温かそうな手
俺は、その手を掴んだ。
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