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第57話
「喋り過ぎたな……大丈夫か?」
「少し苦しい、ですけど……大丈夫です」
酸素マスクを付けながら話すのは少し辛い。
でも、眠気は飛んでいるせいか起きていられる。
「そうか。………今お前の身体はボロボロらしい。
肋骨や鎖骨にヒビが入っているのと栄養失調、あと手首の傷だな…割と深かった為に血が少し足りなかったらしい」
「………御迷惑を、おかけしました」
「迷惑なんて思ってない。月山が生きててくれていただけ、俺は良かったと思ってる」
よく見ると、先生の目の下には隈が出来ていた。
もしかしてずっと隣にいてくれたのだろうか。
「先生、俺何日寝てましたか?」
「三日程だ」
「………ずっと、俺の隣に」
「…当たり前だろ。いつ目を覚ますかなって、たまに声を掛けたりもした。
たまに手が動いたりして、俺の手を握ってくれた」
じゃあ、あの暗闇で呼んでいたのは。
(なんで、俺にばかり)
「………俺を、家においていいんですか?」
「?どうして」
「先生は、将来……綺麗な女性と、結婚するでしょう……?
俺、邪魔になりますよ………」
結局傍にしたら、俺は先生の重荷でしかないんだ。
生半可の優しさなら、俺はその手に縋りたくない。
「う〜ん……綺麗な女性かぁ……。
結婚出来るか分かんないけど、ずっと一緒にいたい人とは一緒にいるから大丈夫」
「?それってどういう…………」
「もう寝なさい。今日はこれぐらいにしよう、また明日。お話しような」
頭を撫でられ、一定の心地よいリズムで腹部をトントンとされる。
一緒にいたい人とは一緒にいる?
それってどういう意味だろう。誰の事だろう。
蜂蜜みたいに溶けそうな優しい目で見つめられ、子供のようにあやされる。
眠気も誘われ、うとうとする。また、眠ってしまうのか。
少しだけ眠るのが怖い。また、暗闇に戻ってしまうのではないか。
でも、繋がれた手に力が込められて、大丈夫な気がしてきた。
「………おやすみ、綺月」
眠りに落ちる瞬間、先生が俺の名前を呼んでくれた気がした。
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