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第62話

何を、言ってるのだろう。 「む、無理ですよ……なんで、そんな」 「月山の事を、ちゃんと知りたいから」 「別に、身体を見たからって……先生が見ていいものじゃありません」 駄目。見ちゃ駄目。 先生は優しいから否定しないでくれるかもしれないけど。 この傷だけは、先生の目に触れさせたくない。 「月山」 「っ、」 「こっち向いて、月山」 「や、駄目っ、今は……っ」 「綺月」 胸の鼓動が一つ、大きな音を立てた。 意識がはっきりしてる時に、名前を呼ばれた事がなくて 実際にその声を聞くと、震えてしまう。 ズルいよ、先生は。 下げた顔を上げてしまいそうになるじゃないか。 顔に手が添えられ、また甘く低い声で呼ばれる。 「綺月、俺を見て」 「…………っ」 「俺は綺月の全部を知りたい。全部を見たい。 何も否定しないから。俺は綺月を、受け入れるか」 「……痣が、いっぱいあっても…嫌いに、ならない?」 「ならない」 「気持ち悪いって、見捨てないで……っ」 「見捨てないよ。言ったでしょ?一緒にいるって」 涙がボロボロとこぼれ落ちていく。頬だけじゃなくて、包む先生の手も濡らしていく。 ずっと誰かに受け入れて欲しくて。見捨てられたくなくて。 縋り付きたい気持ちを押し殺して、生きてたから。 そんな優しい言葉を言われたら、甘えてしまう。

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