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第72話

話しながら歩いているうちに、自分の住んでいた家に着いた。 もう、今後見ることは無いのだと思うと少しは寂しいものか。 「先生は外で待っててください。すぐに戻るんで」 「ほんとに、大丈夫?」 「はい。危なくなったら、呼ぶので」 「うん……」 一人にするのが心配なのか、不安そうな表情を浮かべる。 多分その時のまんまなら先生には見せたくないし、もっと悲惨かもしれない。 大丈夫、そう思ってドアに手をかける。 (あれ、) 鍵が、開いてる。 誰かいるのだろうか。父さんはいないはずだし、他に誰が………? 警察の方だろうか、とりあえず中へと足を踏み入れる。 靴を脱ぎ、廊下を歩いているとリビングに人影が見えた。 ギシ、ギシと足音が鳴る。少し高まった鼓動が音を立てるのが分かる。 扉に手をかけ、リビングへ足を踏み入れた。 「……………!」 「……あら」 長い髪の、女性。遠く昔に見た面影とあまり変わらず、皺が少し増えた優しい表情。 何故、ここにいるんだ。 「母、さん……………?」 「……綺月」

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