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第74話

「あ、綺月大丈夫だっ………」 「どうも、綺月の……元、母親です。貴方が綺月を引き取ってくださるという……」 「はい、黒木綾と申します」 先生は少し戸惑った様子を見せたが、俺の母親だと分かると背筋を伸ばした。 「綺月がいつもお世話になっています。教師をなさっているとか……」 「はい、同じ高校でさせていただいてます」 「そう……綺月を、よろしくお願いします。この子、昔から何かと嫌な事があっても隠すから」 「か、母さんそんな事言わなくていいよ」 「だって面倒見てもらうんだもの、貴方の性格を少しでも知ってもらわなきゃ」 いやもう既にその隠すのはバレてるから言わなくてもいいよ。 これ以上変な事教えられても困る。 「綺月は、いい子です。私に産んでくれてありがとうなんて言う子だから……言われる資格なんて無いのに。 それ程優しい子なんです。だから……」 俺の頭を撫でる母さんの言葉は、少しばかり悔やまれるような声で発せられる。 母さんといた時間は少なかったけど、それでも記憶にあるだけの時間は過ごせたはずだ。 今日再開して、またお別れをする。 でも、別に後悔もしてない。 また自分のいる場所へと帰るだけなんだ。 「………綺月君は、俺が責任をもって引き取ります。 絶対に悲しませたりしません、辛かった分沢山幸せにします」 俺と母さんの目をじっと見つめ、一言一句丁寧に力強く。 なんだかプロポーズみたい、と。 「まるで、プロポーズみたいですね。 私は綺月を幸せに出来なかった………綾さん、貴方に綺月を、綺月を幸せにしてやってください」 深々と頭をさげ、俺の幸せを願ってくれる母さん。 母さん、俺はもう充分幸せだよ。 母さんと会えた事、先生に母さんを紹介できた事、 母さんに名前を呼んでもらえた事が、幸せだよ。

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