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綿入れ半纏*

「まぁ、まぁ、お世話様です。さすが、ふっくらと暖かにできましたねぇ」 白帆は愛想よく布団屋を褒め、見送った。 「今年の冬もこれで乗り切れるな」  舟而は早速たとう紙を開け、会津木綿の綿入れ半纏へ袖を通した。羽衣のように軽く、ふうわりと暖かく、まるで春の陽気をそのまま纏っているような心地だ。  しかも原稿を書くとき袖が邪魔にならないように船底型、つまり袖口はすぼまり、肘にかけて膨らむような形になるよう、白帆が布団屋へ型紙を渡す気遣いをしてくれていた。  誰が袖、誰が袖と舟而はふざけるが、白帆の表情は曇っていく。 「仕事がもう少し暇なら、私が縫って差し上げたのに」 先ほどの愛想のよさはどこへやら、白帆はとうとう赤い唇を尖らせた。  舟而はその唇へ自分の唇を触れさせる。 「お前さんが目を利かせて、采配してくれたんだ。手を動かすことばかりが愛情ではないよ」 「でも……」 「夜なべをして、僕が覆いかぶさって払い除けられるより、よっぽどいい」 舟而はそう言って、白帆を背後から抱き締めた。ふざけて体重を掛けるのを、白帆は笑いながら受け止め、前屈みになった。 「さよですか? 先生に言われると、すぐこれでいいよな気持ちになっちまいます」 「いいんだよ。僕が喜んでいるのが、わからないのかい?」 頬に唇を押し付けて、さらにゆらゆらと白帆におぶさって、白帆の貝殻のような耳に口をつけて話し続ける。 「こうやって僕の相手をしてくれる時間だって、白帆が布団屋へ仕立てに出すという才覚で作り出してくれたものだ」 「ふふ。お金を掛けるより、手を掛けたい気持ちなんですけどねぇ」 「そうかい? だったら僕に手を掛けてもらおうじゃないか」  舟而は白帆の胸の合わせへそっと手を滑り込ませた。 「遊んでおくれ、僕と」 「先生、本当に手を掛けてよろしゅうございますか?」 白帆は切れ長な目を細め、意味ありげに口角を上げる。 「? ああ。何か策でもあるのかい?」 「ございますとも」  炭が燃える長火鉢の傍らに、そっと舟而を座らせると、白帆はその脚の間へ手を伸ばした。 「し、白帆……」 白帆は布を掻き分け、舟而の硬さを掴み出す。 「手を掛けさせていただきます」  妖艶な笑みを舟而に向けながら、細い指を絡めてゆっくりと扱く。 「ああ、白帆……」 始めは笑い掛ける余裕もあったが、その力加減が程よくなり、速度が早められると、舟而は頬を赤らめて後ろ手を突き、天井を見上げた。 「ふふっ。手を掛けていいとおっしゃったのは先生です。このまま仕留めさせていただきます」  白帆はちらりと唇を舐めると、前かがみになり、怒張した姿を頬張った。 「うあっ! 白帆っ!」 熱く柔らかな粘膜に包まれ、舟而は悲鳴を上げた。根元は強く早く扱かれながら、先端にはアイスクリームを食べるように濡れた舌がまとわりつく。 「お前さん、そろそろ許しておくれ。爆ぜてしまう……」  白帆の肩を叩くが、白帆は顔を上げず、舟而は赤く丸い口に怒張が出入りする、ぬらぬらとした生々しさを目の当たりにする。 「ああ、白帆っ。いい子だから、口を離しなさい」 かたくなな態度に舟而は小さく溜息をつく。 「いいんだね、白帆?」  頬張ったまま頷く姿に、舟而は天井を見上げ、目を閉じた。  尖らせた舌の先が裏側を辿り、緩めた舌がひたりと吸い付く。じゅぼじゅぼと唾液が泡立つ音が聴こえ、舟而は閃光が貫くような快感に支配された。 「うっ、ああ、白帆っ!」 白い粘液が細い管を一気に駆け抜け、白帆の喉を真っ直ぐに打つ。 「ん……」  何の快楽も得ていないはずの白帆が、目を閉じて恍惚とした表情を見せる。濡れた唇を閉じ、胸元に手を当てて、何度も喉を動かした。 「はあっ、はあっ。……お前さん、無理をするんじゃない」  慌てて手拭いを差し出したが、白帆はゆっくり目を開けると微笑んだ。 「すっかり頂戴してしまいました」 「まったく。何の腹の足しにもならないものを」 おかっぱの髪を撫でると、白帆はくすぐったそうに笑った。 「私の意地悪な気持ちは満たされます」 「馬鹿なことを……」  舟而は白帆を抱き寄せた。 「こんなことをされてしまっては、僕のほうが意地悪な気持ちになるじゃないか」 言葉と裏腹に、鳥の羽根が触れるような接吻を繰り返し、白帆はうっとりと微笑む。 「意地悪……、されとうございます」 「今日のお前さんは、どこまでもすらりといかないね」 「先生に構っていただきたいんです。毎日お仕事ばかり、先生のお菜を拵える時間もろくにないんですもの」 「お前さんが僕のお菜になってくれればいいさ」 白帆の唇を自分の唇で柔らかく食み、舌を絡めとって吸う。 「ん、んん……」  白帆は舟而の胸に縋り、舟而はますます白帆を抱き込んで口づけを深める。 「はあっ」 ようやく離した二人の口の間には、電灯の光を受けて銀色に光る糸があった。 「このままでは寒いから、炬燵にあたろう」 掘りごたつへ足を入れて座ると、その膝の上に白帆を座らせた。 「子供みたいです」 笑う白帆に関係なく、炬燵布団の下で手を動かし、白帆の着物の裾を捲り、腰周りを覆う布を取り去った。  真珠色の尻が、直接舟而の太ももに触れる。  搗き立ての餅のような尻を揉みながら割り開き、再び力を持った己を最奥目指して差し込んだ。 「あっ、先生ッ!」 喘ぐ白帆の腰をしっかり抱え、舟而は下から突き上げた。 「あっ、あっ、先生っ!」  知り尽くされた体内を自在にされて、粘膜は打ち震えて舟而の熱に絡みつき、ラムネのような弾ける刺激が全身を駆け巡る。  白帆はたまらず炬燵に縋り付き、伸ばした手が籠を叩いて、積み上げてあった蜜柑が転がり落ちた。 「あっ、あっ、あっ、先生っ、先生……っ!」 ガタガタと揺すられて、白帆は顔を上げたり、伏せたりしながら責めに耐える。 「ああ、白帆……」  さらに舟而は、白帆の懐へ手を忍ばせて、指先に触れた粒をなぶり、白帆の足の間で揺れるものを掴んで摩擦した。 「あああっ、そんなっ、そんな一度になさらないでくださいまし」 白帆の象徴を弄ぶ舟而の手を、透明な液がしとどに濡らし、舟而は白帆の訴えを聞かすに突き上げ続けた。 「もう、もう、気を遣ってしまいそうです、先生」 「いつでも遣りなさい。僕もじきに辿り着く」 さらに激しく突き上げられて、白帆は快楽の海へ身を投じた。 「はっ、あああん、先生……っ」 白帆が一際、甘い声で鳴き、全身を波打たせると、舟而も強く突き上げて、白帆の腰を揺さぶりながら身を震わせた。 「白帆…………っ!」  思いの丈を白帆の体内へ注ぎ込み、応えて白帆も受け取って、二人は崩れた。  猫のように互いに鼻をつけ、頬を擦りつけ、肩を寄せ合って余韻の時間を過ごす。 「しっかりお菜を頂いたよ」 「ふふふ。どちらが頂いたのか、わかりませんけど」 二人は唇を触れ合わせ、額をくっつけあって笑った。 「……くしゅんっ」 「汗が冷えるとよくない」 白帆の肩に、舟而と同じ反物から作った会津木綿の綿入れ半纏を着せ、その上から改めて白帆を抱き締めた。 「いい綿入れ半纏だろう? お前さんをお菜に変えてくれる、魔法の半纏だ」 「また先生は面白いことを。そんなに私を食べたいんですか?」 「あぁ、いくらお前さんを食べても飽き足らない。もっともっと欲しくなる。まるで後引くキャラメルのようだ」 「甘いですね、先生」 「あぁ、恋とはどこまでも甘いものだよ」 再び触れ合うように唇を重ね合わせながら、ころころと笑い合う。 そんな二人を、畳の上に転がった蜜柑が温かく見守っていたのだった。

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