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第120話*

 ずるり、と稜而の分身が抜き出されて、遥は身体を震わせ、赤く染まった頬を光らせて笑った。 「楽しかったのん。変な格好になっちゃったのよー」 足許には片足だけ脱いだトラウザーズとシンプルな黒のTバックショーツ、全てボタンが外されたジャケットとベストとワイシャツ、首には朝結んだままのネクタイという自分の姿を見下ろして、遥は眉尻を下げる。  稜而が脱ぎ捨てたトラウザーズと下着はベッドの上に雑に投げてあり、上半身は整ったまま、下腹部だけ剥き出しになって濡れていて、靴下と革靴は履いたままだった。  二人は身体に残っているスーツを脱ぎ、ハンガーに掛けて埃を払い、二人揃って全裸に靴下だけという姿で革靴にブラシを掛けた。 「遥ちゃん、はらぺこいもむしちゃんだわー。♪おなかすいたのよ、ララランラン! おなかすいたのよ、ララランラン! にゅうしおーわーり、きがぬーけーた♪ 不合格だったら、もっと追い込まなきゃいけなくなるけど、まずはごはんなのん。腹が減ってはセックスできないのよー!」 「ルームサービスを頼もう」 稜而の即決に、遥は目を丸くした。 「えー! 超、割高っ! 全然お得じゃなくて、全然主婦の鑑じゃないわー。食べ物が部屋へ運ばれてくるだけでこんなにお高くなるなら、遥ちゃんがレストランへ歩いていくのん」 「嫌だよ。明らかに『事後です♡』ってツヤツヤした顔の遥を連れて、この部屋から出たくない。その顔を見ていいのは、俺だけ」 稜而はさっさとルームサービスのメニューを広げた。 「お肌ツヤツヤ、遥ちゃんの美肌の秘訣はセックスなのん。セックスでキレイになる! なのよー」 ルームサービスをオーダーしてシャワーを浴び、バスローブ姿で料理を受け取ると、遥はベッドの上にクロスを敷いて、料理を並べた。 「ねぇ、遥。なんで西洋の人や、くまのパディントンって、ベッドで食事をするの」 「遥ちゃんが日本の人からその質問を受けたときは、『日本のコタツと似たような感覚なんだと思うわ』ってお答えしてるのん。ずーっとぬくぬく、ごろごろしたまま、カフェオレや紅茶やクロワッサンやマーマレードの朝食を食べて、おしゃべりも、読書も、お昼寝も、いちゃいちゃもしちゃうのん」 「なるほど、コタツって言われると、何となくわかる気がする」  二人はベッドの上で、ピクニックのように食事を始めた。蜂蜜に漬けて焼いたターキーと半熟のフライドエッグが層をなすクラブハウスサンド、とろけたチーズの輪郭がトマトソースに滲むピッツァ、香ばしいバンズと弾力のあるパティが折り重なったバーガー、前歯でかじるとみずみずしくはじけるスティックサラダを、次々に手掴みで食べて、咀嚼する間は互いの目を見て、キスをして、笑顔を交わし、肩をぶつけ合う。 「うふーん。美味しいのん。稜而と一緒のごはんは、超、超、美味しいのん」  オリーブやチーズの欠片は、指でつまんで互いの口の中まで運んだ。 「遥、口開けて」 遥は素直に口を開け、口の中へオリーブを入れてもらって、さらに稜而の人差し指に舌をくすぐられて笑った。 「はい、稜而も、あーん!」 つけあわせのフレンチフライを口から半分飛び出させ、キスするように稜而の口へ食べさせる。  さらに季節のフルーツを盛り合わせたプレートへ手を伸ばすと、遥は薄くスライスしたリンゴをつまみ上げ、稜而の上体を倒し、バスローブの裾を開いた。 「なにするの」 稜而が肘で上体を支え、くすくす笑いながら訊くあいだに、遥は稜而のもっとも男らしい部分へリンゴのスライスを載せた。 「リンゴ、跳ね上げちゃダメなのん」  遥はドレンチェリーのように赤い唇の左右の口角をきゅっと上げて、稜而の顔を上目遣いで見上げつつ、ゆっくりリンゴへ顔を近づけていく。  稜而は視線を天井に向けて前髪を吹き上げ、意識を逸らして堪えようとしたが、リンゴを食べる遥の舌がそのまま稜而に絡みついて、口に含まれ、熱い粘膜にねっとり包まれると、瞬く間に充血した。 「遥」  遥は稜而の手を自分の頬へ導き、頬の内側にある稜而の形に触れさせた。つい目で追って、自分の怒張が赤い唇の輪に吸い込まれ、遥の口の中が膨らんでいる様子を凝視してしまう。  稜而の視線に気づいた遥は上目遣いになりながら、頬の粘膜と、柔らかな舌と、歯が触れないように丸めた唇と、根元に絡めた指を駆使して稜而を追い上げていく。 「全然もたないかも……」 「いつでもどうぞなのん」  それだけ言うと、遥はまた稜而の昂りへ舌を這わせ、口に含み、熱くねっとりした粘膜で稜而を翻弄した。  カッカとした熱が遥の口から送り込まれてくるような刺激を、稜而は目を閉じて甘受する。 「遥……」 手を伸ばし、腰に添えられていた遥の左手に触れると、細い指が稜而の指に絡む。そのまま手をつないで親指の腹で遥の手の甲を撫でながら、身体の力を抜いた。  根元を指で扱きながら、裏側を舌で辿り、笠のふちをなぞられ、先端を舌先で抉られて、稜而はこみ上げてくる熱に浮かされ始める。 「はあ……」 平らにした舌に包まれ、指の輪に激しく追い上げられて、稜而は腰を貫くような快感と同時に熱を放った。 「あっ、ああっ、遥っ、はるかっ!」  遥は稜而の白濁をすべて飲み干すと、若草色の瞳をいたずらっぽく細め、オレンジジュースを飲みながら笑う。 「稜而、すぐにおっきくなっちゃうのん。えっちっちー!」 「遥に言われるのは心外」  稜而は起き上がって遥を仰向けに寝かせ、自分はその隣に寄り添った。遥のバスローブの胸元を開くと、皿の上のスターフルーツをつまみ上げる。 「遥ちゃん盛りなのーん」 「落とすなよ」 「やーん、そんなの無理よぅ」 遥はミルクティ色の髪を振って笑った。

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