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第130話*
「お前、あんまり飲み過ぎるなよ」
「遥ちゃん、半分コーカソイドだから、全然平気なのん」
「過信するな。稜而に首を絞められるのは、俺なんだからな」
如月とのやりとりに、四月一日 が口を挟んだ。
「もし具合が悪くなったら、俺が送っていくよ」
「ふうむ。そのときは稜而が迎えに来てくれますのん。今夜は当直やオンコール当番じゃないんですのよ」
絆創膏を貼った首筋を人差し指でポリポリ掻いた。
「どうしたの」
「痒いのん。……あ、虫刺されですのん♡」
「天ぷら油じゃないのか」
如月の小さな声が反対側から聞こえてきて、遥はぴょこんと背筋を伸ばす。
「ええと、ええと、そこへ天ぷら油が跳ねたんですのん!」
「虫刺されと火傷のダブルパンチ? 大変だね」
「ええ、まぁ、その。……四月一日、次は何を飲みますのん?」
空のジョッキを見て、飲み放題のメニューを差し出す。
「あ、ありがとう。気づいてくれたんだね」
「ええ、まぁ、その……。さつきちゃんとメイちゃんは何飲む? 先生はウーロン茶でよろしいですか?」
遥は周囲のオーダーを全部集めて、店員を呼んだ。
「ウーロン茶と、ウーロンハイと、緑茶ハイと、ハイボールと、カンパリオレンジお願いしますのん!」
届いたカンパリオレンジを飲み、さらに生搾りピンクグレープフルーツサワーを飲み、レモンサワーを飲み、抹茶ハイを飲んだ。
「遥ちゃん、お酒に強いの?」
メイが正面で首を傾げるのに、一緒に首を傾げて遥は笑う。
「うふふ、強いのん。焼き鳥も美味しいのーん! せせりって初めて食べましたの! ジューシーもちもちなんだわー! メイちゃんも食べて、食べて! ダイエットは明日からなのーん!」
焼き鳥をメイとさつきの皿にも取り分け、おかわりしたカンパリオレンジをかぱかぱ飲む。
「遥ちゃん、細いよね。ダイエットなんかしないでしょ?」
「ダイエットはむしろ危険なんだわ。家族には気胸 を心配されるのん。なりやすいと思うから、気をつけてって言われるけど、気をつけ方はよくわからないのん」
「気胸ってなに?」
「吸った空気が肺から漏れて、肺の周りに空気が入って、肺が圧迫されて呼吸が苦しい、みたいなやつらしいのん。若くてひょろひょろ体型な人がなりやすいらしいわーん」
遥は、ぺらぺら喋り、かぱかぱ飲んで、ぱくぱく食べながら、目玉だけを静かに動かし、座敷全体を見回す。如月は早々に自分のグラスを持って、学生たちに声を掛けて回っていて、遥も自分に注意が向かなくなったタイミングでそっとグラスを持ち、何も言わずにスマホだけを弄る人が集まる場所へ移動した。
「本日はお日柄もよくー! 渡辺遥ラファエルでーす! カンパーイ! カンパーイ! 飲んでる? 食べてる? 焼き鳥、食った? あとで唐揚げも出てくるって。唐揚げにレモンは掛ける派? マヨネーズ掛けるっていう人もいるよね」
話しながら、飲みながら、少し離れたところで学生の話に相槌を打つ如月のグラスを見る。
「すみませーん。カンパリオレンジと、ウーロン茶くださーい」
如月の手元にそっとウーロン茶のグラスを置き、また別のグループに混ざって話し、かぱかぱ飲んで、結局、座敷を一周して、元の自分の席へ戻ってきてしまった。
「遥、おかえり。全員に声を掛けて歩くなんて、偉いね」
四月一日からの声掛けに「別に、人数少ないし」と答え、グラスを煽る。
「カンパリオレンジくださーい! ……あ、残り物の福はもらっちゃうねー!」
残っていたサラダをかき集めて食べていたら、スマホが震えた。
「あらーん、稜而からだわーん」
口の周りについたドレッシングをぺろりと舐め、いそいそとのぞき込んだトーク画面に、メッセージが表示された。
『用があるから、トイレの個室に入ったら連絡して』
「トイレからお電話するのん?」
稜而のメッセージに既読をつけた瞬間、十数枚もの画像が一気に送られてきて、トーク画面を流れた。
「ひゃあっ!」
「どうしたの?」
四月一日が遥の手元をのぞきこんできて、遥は慌ててスマホを畳の上に伏せた。
「な、ななななななな、なんでもないのんっ!」
ふるふるとミルクティ色の髪を振って、スマホのバックライトを消してから立ち上がった。
「ちょ、ちょっとお花摘みに行って参りますのんっ!」
「花?」
遥はイヤホンとスマホを握りしめ、ばたばたとトイレの個室に駆け込んだ。
「び、びっくりなのよ-……。ひっひっふーだわー」
遥は改めてトーク画面を見る。それは稜而が『俺にいい考えがある』と言った夜に撮った画像の数々だった。
二人が全裸で身体を寄せ合い、抱き合い、キスをする画像が連なり、さらには張り詰めた稜而の雄蕊が遥の蕾を押し広げ、ずぶりと埋まっている画像もあった。
「モザイクなしは強烈ですのん」
洋式便座にぽたんと座り込み、画像をフリックしていたら、稜而のほうからコールしてきた。遥はイヤホンをセットして通話ボタンを押す。
「もしもしなのよー……」
「今、どこにいる?」
「お手洗いの個室なのん。コンパ中に刺激的すぎるんだわー」
「でも、すごくいい写真だと思わない? 興奮するよね」
「とってもむはむはよ。便座から立ち上がれないわ」
「硬くなった?」
「もちろん」
「見せて。写真撮って、送って」
「えっちっちー!」
「ねぇ、お願い。見たいんだ。見せて。本当は、今すぐ遥を迎えに行って、そのまま車の中で愛し合いたいくらいなんだ。止まらない……。お願い、遥」
切羽詰まったような声が耳に掛かり、遥はふわりと笑顔になった。
「ちょっとだけよ、なのん」
遥はジーンズの前立てを開け、下着を引き下げて、自分の雄蕊を解放する。
「はあ……っ」
写真を撮って送信ボタンを押すと、トーク画面に表示されて既読がつく。
「遥、苦しそうだね。俺は触ってあげられないから、自分で触ってあげて」
「でも……」
「大丈夫。すぐ楽にして、クラスの皆のところへ戻してあげる。だから、俺の言うとおりにして」
「……はい、なのん」
「声は出さないようにね。まずはしっかり握って、ゆっくり上下に動かして」
張り詰めている己に、遥はそっと手を掛けた。
稜而に言われたとおり、握った手を動かすと、それだけで腰に電流が走る。
「はっ、は……っ、ん」
「気持ちよくなってきたみたいだね。上手だよ、その調子だ。もう少し早く動かして」
「稜而……っ」
熱っぽいため息を稜而の耳へ送る。
「今日、遥は、俺が選んだウェスタンシャツを着てるよね。左の胸ポケットにスマホを入れて、前ボタンはそのまま、隙間から左手を入れて、右の乳首も触って」
遥は小さく身体を震わせたが、素直に言葉に従って、左の胸ポケットにスマホを入れると、左指を忍び込ませた。
「タイトなデザインだから、指が動かしにくいかも知れないけど、もどかしさもいいと思わない? 指先でつまんで左右にねじると、遥の乳首はとても喜ぶよ。ほら、くりくりってしてあげて」
「ん……っ!」
遥の指に弄られた乳首は、充血してぷっくりと膨らみ、摘んでねじると、ぴりぴりとした快楽が腰まで伝わる。
「はっ、あ、稜而……」
「ああ、遥。いつもみたいに思い切り口で吸って、舐めてあげたい。唇で挟んで、前歯で軽く噛んで、舌で転がして、遥を啼かせてあげたいよ」
稜而から施される情熱的な愛撫を思い出し、遥は目を閉じたまま顎を上げ、シャツの隙間から乳首を責め立て、雄蕊を握り締めたまま、ぶるぶると身体を震わせた。
「んっ」
「遥、右手も動かして。もう先が濡れてるだろう? 指の腹で塗り広げるみたいに撫でてごらん。ほら、気持ちいい……」
「ひゃっ、あ、ん」
熱いような刺激に身がすくむ。
「頑張って、遥。指を止めないで、もっとぬるぬるにして」
「は、ああ、……稜而。とけちゃう……」
「まだ許さないよ。乳首を弄って、ペニスもたくさん虐めるんだ。揃えた指先で挟んで、いやらしい遥を扱いて、お仕置きして」
「ご、ごめんなさい……。もう……」
「もう? 本当に遥はエッチな子だね。でもいいよ、そういうところも可愛い。今日は、焦らす時間もないから、いかせてあげる」
稜而が小さく笑う声と同時に、遥の胸ポケットに入っているスマホが振動した。
「やっ!」
「そのシャツはタイトなデザインだから、左の乳首に振動が伝わるんじゃないかな? 今、遥の居場所を検索してるから、その通知でバイブレーションしてるんだ。ちゃんと居場所がわかれば、振動は止まるからね。それまで気持ちよく感じていて」
「稜而……っ」
「ほら、両手が止まってるよ。動かして。言うことが聞けなかったら、あとでお仕置きするからね。遥が買ったまま、一度も使ってないアナルビーズがあったよね。あれを一粒ずつ押し込んで、それからゆっくりと、俺の目の前で産ませてあげようかな」
くすくすと笑う声に身体を震わせながら、遥は己の蕊を擦り上げ、右の乳首をつまんで揺さぶり、左の乳首をスマホのバイブレーションに遊ばせた。
ぶるぶるっ、ぶるぶるっ、と独りでに腰が震える。
「もう限界かな。おいで、遥」
「はっ、んんんんんっ!」
歯を食いしばって声を噛みながら、遥は背を丸め、腰を跳ねさせて、白い便器の中へ白濁を放った。
「お疲れ様」
稜而がたてる爽やかな笑い声を耳に聞きながら、遥は息を吐いて苦笑する。
「ちくしょう。気持ちよかった……。超、ばかなのん」
トイレットペーパーで指と萎れた雄蕊を拭い、水を流して個室を出た。
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