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第144話*
稜而は遥の髪を撫で、頬にそっとキスをする。
「遥、可愛い」
前髪をさらりとこぼしながら顔をのぞき込まれ、遥は照れくさそうに視線を逸らすと、稜而の唇に自分の唇をぶつけた。
稜而の唇に押し返され、そのまま舌を差し込まれて、遥はその舌をしゃぶり、ぬるぬると舐めまわして応戦する。
舌を絡めあったまま、稜而の温かな手が遥の白い肌を滑っていく。肩があらわになり、そのまま上衣を剥ぎ取られ、稜而の白衣の感触が直に触れる。
「ん……」
遥は稜而の首に両腕を回し、二人はさらに深く口を合わせる。
その間も稜而の手は、遥の肌の上を滑り続け、再び胸の粒が指先で弄ばれ、熱く甘い痺れが全身へ巡り始める。
「んんっ」
「気持ちいい? もう一度、ここでいこうか」
さっきとは反対の粒を口に含まれ、指でつままれて、遥は容易く遂げた。
「あっ、んんんんっ、稜而っ!」
稜而は間髪をいれず、胸骨から正中にまっすぐ舌を這わせ、鎌首をもたげ始めている雄蕊を一息に口に含む。
「あっ!」
遥の身体が震え、細い指が稜而の髪に埋められた。稜而は遥の右手の指と自分の左手の指を絡めて握ると、遥の雄蕊の上半分を口に含んだまま、その根元を右手で握って、火を熾すように強く擦り上げる。
「ん、んんっ」
遥の雄蕊は瞬く間に硬度を増し、稜而の口の中へさらさらとした液をこぼす。稜而は甘露のように飲み下しながら、すぼめた唇で柔らかく扱き、舌で形を辿り、笠のふちを舐め、先端を舌先でくすぐった。
「はあっ、ああ……。りょうじ……」
遥の腰には、くすぐったさと快感がマグマのような熱になって渦巻き、稜而から刺激を与えられるたびにその熱は蓄積されていく。あふれそうな気配がして、「いきそう」と稜而に告げると、さらに刺激は強められた。
「あ、あ、稜而っ! ああああああっ!」
遥の体内で溜め込まれたエネルギーが、勢いよく稜而の口の中へ飛び出していく。
「はあっ、あっ! ああっ! あっ!」
細い管の中を一気に駆け抜ける快感は爪先まで及び、遥は放つたびに身体を震わせた。
「あんっ!」
さらに管の中の残滓を稜而に吸い上げられ、遥の身体に快楽のとどめが刺されて腰を跳ね上げ、ベッドに力なく身体を投げ出す。
「今夜はよく眠れるかな」
稜而は赤く火照った遥の頬にキスをすると、稜而は清拭を再開し、適温になった蒸しタオルで舌を這わせた上体を拭き、左右の足を拭いてから、最後に丁寧に陰部を拭いて、遥の甚平を深緑色の絣模様に着替えさせた。
「稜而は、なにもしなくていいのん?」
真っ白なドクターコートのポケットに、遥は人差し指を引っ掛けた。
稜而は上目遣いの視線を見つめ返し、ゆっくりと瞬きをして、深呼吸する。
「その気になりたいところだけど、残念ながらもう三回くらいコールを無視してるから、限界」
胸ポケットでPHSが鳴動していて、稜而は応答すると、相槌を打ちながら視線を左右に動かしては止め、情報を頭の中で整理し、手順を組み立てつつ相槌を打つ。
「ええ、ええ。はい……。ん、ちょっと待って。エンブレンが使えない? それ、誰が言ったんですか?」
稜而が気色ばむ姿に、遥は小さく肩を竦めた。
稜而は眉間に軽くシワを寄せながら話を聞いて、低い声で相槌を打つ。
「はい、はい。……ああ、ご家族が? 紹介元のドクターではなく? それ、何か捉え違いをされてるんじゃないかな」
稜而は壁に寄りかかり、ふっと前髪を吹き上げる。
「……確かにエンブレン発売当初は細胞傷害活性の可能性があるって言われてたけど、もうだいぶ前に否定されてますし。……うん、だってエンブレン使わなきゃ、間に合わないですよね。俺はできれば使いたいと思いますけど……」
それからもしばらく相手の話に相槌を打ち、結局「わかりました。一旦戻ります」と通話を終えた。
「またあとで。余韻もなにもなくて、ごめん。愛してる」
稜而は素早く遥の頬にキスをすると、使い終えたタオルを手に、病室を出て行った。
「早く退院して、心置きなくあーんってしたいわー。明日には治っていたらいいのに」
遥は、誘ってくる眠気に素直に身を任せ、ベッドに潜り込んで目を閉じた。
「あ、もう寝てる」
ナースの声が聞こえたが、遥はそのまま朝までぐっすり眠った。
「寝るってすごいのーん! 引っ張られる感じはあるけど、もうほとんど痛くないんだわー! ♪なつかしーい、いたみだーわ! ひとばんねて、わすれたのよー♪」
食パンにマーガリンを塗りつけながら、遥は顔を左右にふりふり、澄んだ歌声を披露する。
隣の椅子でコンビニのおにぎりに食いついていた稜而は、左手におにぎりを持ったまま立ち歩き、右手でガーゼを剥がして創を確かめる。
「順調にくっついてきてるね。抜糸は一週間後でよさそうだ。……退院してしまおうか」
稜而は前髪をさらりと揺らし、王子様のように爽やかに笑う。
「え?」
「週末、病院にいても寝ているだけだし、家にいるほうが気楽じゃない? ああ、でも家に帰るといろんな用事を思いついて動き回ってしまうというなら、休み明けの退院でもいいけど……」
「帰りたいのん!」
稜而の言葉を遮るように遥は宣言し、稜而はうんうんと頷いた。
「じゃあ、退院しよう。薬剤部に退院後処方をオーダーしておく。遥は部屋と荷物を片付けておいて」
遥はキャベツ畑を模したペーパーフラワーを外し、ガラス窓に貼ったジェルシールも剥がして、持参したタオルや洗面道具を押し込んだ。
「病室でお医者さんとイケナイことをするのもいいけど、やっぱり自宅のベッドで心置きなくえっちっちーしたいのん。さぁ、帰りますのよー!」
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