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第171話―国内留学・準備編―
「♪おゆかけーて、おゆかけーて、ラーメンできあがーり。あのひとーは、でんわちゅーう、めんがのびてゆく♪」
腰にバスタオルを巻いただけ、硬い黒髪は湿ったまま、稜而は書斎のデスクに座り、パソコンの画面と封筒の中身を見比べて、相手の話をメモしていく。
「はい。この書類は所属長のサインでよろしいですか? はい、院長名で。……いえ、大丈夫です。月末までに一度、お伺いするようにします。別件もありますので。……そうですね、もし可能でしたら、ご挨拶させて頂ければ」
遥は稜而の肩にバスローブを羽織らせると、自分はキッチンのカウンターテーブルに向かって座り、水滴がつく蓋をぺろんと開けた。
「♪すぐおいしいっ、すごくおいしいっ♪ まんぷくなももふくさんに、敬意を表していっただっきますなのーん! あーん、この味なのん。フランスで日本を懐かしみながら食べた味ですのん。この味が、遥ちゃんのハートを日本に里帰りさせてくれてたんだわー!」
口の幅いっぱいに麺をすすり、咀嚼しながら天井に向かってうっとり目を閉じ、乾ききっていないミルクティー色の髪を振る。
うなじに赤い跡があり、バスローブを羽織った足を組めば、内腿にも赤い紅が散っていた。
「遥っ!」
バスローブを着た稜而が両手を広げながらまっすぐに歩いてきて、インスタントラーメンを咀嚼している遥を抱き締めた。
「遥に車を買ってあげる!」
「お、おーいえー?」
「四月から半年! 入汲温泉町 のリハビリテーション病院に留学できることになった」
「入汲温泉町って、おばあちゃんがいるところっちゃー?」
「そうだよ。遥はリハ病院も行っただろう?」
若草色の瞳を天井に向け、すぐに遥は頷いた。
「熱中症のおじいさんが乗った救急車の後ろを走ったのん」
「そう。あの病院だよ。今回の留学は、お父さんとお母さんが身元を引き受けてくれた。おばあちゃんの家の離れに住んで、そこから病院に通う」
遥はぷうっと頬を膨らませた。
「稜而だけずるいっちゃー! 遥ちゃんもおばあちゃんの家ば一緒に住みたいっちゃよー!」
「そう言うと思った。だから車を買ってあげる。金曜日に入汲に来て、月曜日の朝に帰ればいい。実質、週の半分は入汲にいられる計算になる。もちろん夏休みはずっと入汲にいればいい」
「おーいえー!」
「寂しい思いはさせないし、浮気する隙も与えないからな」
「浮気なんてしないのん。稜而がしっかりつなぎ止めてくれるんだわー!」
「今からもう一回、つなぎ止める?」
耳に流し込まれた言葉には、遥の身体の芯を甘く震わせる響きがあって、遥は稜而の首に両腕を絡めたまま、片足を上げて稜而の腰に巻き付けた。
「『もうダメ』ってなっちゃうくらい、つなぎ止めて欲しいんだわー」
密着した互いの腹には、相手の硬く尖った蕊が触れていた。
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